12
――同時刻・繁華街の廃ビル屋上
ドックン。ドックン。ドックン。
心臓の音が響く。
街の雑音は、耳に入らない。
少年の耳には自分の心音だけが響く。
イジメ。
イジメイジメ。
イジメイジメイジメ。
繰り返す永遠に終わらない嫌がらせ。
少年は呟く。
「どこを変えたらイジメられないのかな?」
答えは帰ってこない。
ただ少年少女たちの笑い声。
それだけが耳に入ってきた。
何を言っているのか少年には理解できない。
ただわかっていたのは自分の心臓の音だけが響いていた。
すると声が響いた。
少年の心に声が響いた。
「汝、我ト契約シ力ヲ得ルカ?」
少年は最初驚いた。
空耳だと思った。
誰に耳にも届いていない。
そんな様子だった。
その声が聞こえたのは自分だけなのだとすぐに理解した。
「モウイトド問ウ。
汝、我ト契約シ力ヲ得ルカ?」
少年は、もうなんでもいいと思った。
「欲しい!
力が欲しい!」
少年は、大声で叫んだ。
すると周りにいた少年少女のうちひとりが怒鳴る。
「喋ってるんじゃねぇよ!
このクズが!」
そう言って少年の腹部を蹴る。
少年の体が吹き飛ぶ。
そして、そのままビルから落ちる。
少年の体が宙に舞う。
「ああ……
死ぬのか、僕は……」
少年のその言葉とともにすべてを諦めた。
死が身近に感じる。
落ちるのは一瞬のはずなのに長い間宙を舞っている気分になる。
そして、再び声が聴こえる。
「我、汝の願いを受け入れた!」
その声が聞こえたと同時に少年の体が熱くなる。
そして、爆音とともに地面に着地した。
少年には自分の身に何があったのか理解できないでいた。
だけどわかった。
だけど知った。
自分の中に溢れる何かに……
すると上の方から少年少女の声が聞こえる。
「お、死んだんじゃね?」
「マジカ。
スマホだ!スマホを用意しろ!」
「ん?救急車でも呼ぶの?」
「バーカ、写真を撮るんだよ!
んで、ネットにアップだ!
俺、有名人になれるかもー!」
少年少女たちは嬉しそうに燥いだ。
ああ、あいつら救いようがないな。
蹴り飛ばされた少年がそう思った。
蹴り飛ばされた少年には名前があった。
藤村 優。
優しい子どもになりますように。
そう願いを込めてつけられた名前だ。
優と書いて[スグル]と読む。
優は、小さくため息をついた。
なぜなら自分の姿を見た少年少女たちがただの少年少女たちに見えたからだ。
「名前……なんだっけ?」
優が、そういうとひとりの少年が怒鳴る。
「ああん?テメェに名乗る名前なんてねぇえよ!」
そして、殴りかかった。
しかし、優にはその様子がまるでスローモーションのように見え避けることなど容易だった。
優は、自分に目覚めた能力があることをすぐに気づいた。
優は、殴りかかってきた少年の腕を掴んだ。
「ああん?
なんのつもりだ?」
優は小さく笑った。
「どかーん」
優のその言葉とともに殴りかかってきた少年の腕が吹き飛んだ。