文化祭とクリアリーブル事件④
放課後 正彩公園
授業を全て終えたみんなは、お馴染みの公園に集合する。 これはもういつもの日常となっていた。 伊達は今日用事があるらしく、今はいないが。
そんな中、いつもと変わらない光景が結人の目の前では繰り広げられている。 今日も彼らの他愛ない会話が、この広い公園を飛び交っていた。
「俺たち合唱の曲、全然決まらなくてさー」
「何曲歌うんだ?」
「二曲。 まだ一曲すらも決まっていないんだぜ?」
「合唱だから何とかなるっしょ」
「4組は劇の練習始まったのー?」
「いや。 練習はまだだけど、内容と役決めを少ししたかなー」
「どんな内容?」
「それはまだ教えない。 本番まで秘密な!」
「えー」
「そういう優たちは文化祭まで何をやるの?」
「俺たちは自分が着たい衣装を考えて、それを自分で作るんだってー」
「え、めんど! ・・・まぁ、コウに任せれば大丈夫か」
「全て俺で解決させんなよ」
今日もまた、みんなは文化祭の話で盛り上がっている。 藍梨も今この場にいて、真宮と楽しく話をしているようだ。
だが結人は誰とも話さず、みんなから少し離れて一人一人のことを観察していた。 この時間が結人は好きだった。
みんなが何気ないことで笑い合っている姿を、見るのが好きだった。 当たり前のように思えるが、この時がみんなにとって一番幸せな時間なのだ。
みんながバラバラになって会話をしていると、突然夜月がみんなの輪の中へ入り込み声を張り上げた。 それによって、仲間は当然彼の方へ注目する。
まるで夜月が、ここにいるみんなをまとめるかのように。
「なぁ、俺たちユーシに出るんだろ? 未来、チーム分けをしてきたんなら早く発表して、さっさと練習始めようぜ」
「お! 何だよ夜月、意外とやる気じゃんか」
「いい思い出を作るなら、中途半端なものにはしたくないからな」
夜月が自らその話を持ち込んでくるとは思ってもみなく、みんなも驚いていたが、未来がそこへ上手くフォローを入れる。
それと同時に彼はベンチの前に立ち、みんなを一度集合させた。 結人もその声により、仲間の輪の中へさり気なく溶け込もうとする。
そして未来はバッグから一枚の紙を取り出し、それを見ながら大きく口を開いた。
「よし、じゃあ俺が決めたチームを発表するぞ! 呼ばれた奴から、左右に分かれていって!」
「おっけー」
椎野が適当に返事をし、それを合図にそれぞれのチームが発表されることになった。
「まずはAチーム! ボーカルから発表するぞー。 Aチームのボーカルは優! そんで、Bチームのボーカルはユイ!」
「え、俺?」
―――俺がボーカル?
確かに優はみんなが認めているくらい、結黄賊の中で一番歌が上手い。 だから彼は選ばれて、当然なのだが――――
―――優に対して俺って、ボーカルの時点で負けているだろ。
早速勝負の結果が目に見え出すと、不安になっている結人の気持ちを察したのか未来が言葉を付け足した。
「次に歌が上手いのはユイだと思ってなー。 でも大丈夫大丈夫、ユイはいい声しているし問題ないから。 はい、二人早く分かれてー」
「いや、それでもさぁ・・・」
納得がいかないまま、未来に腕を引っ張られ結人はBチーム側へと行く。
―――ボーカルとか、一番プレッシャーかかるよなぁ。
だが文句や言い訳を言っている間もなく、話は早くも次へと進んでいた。
「次! 次からはダンスのメンバーだけど、まず一番大事なのは両チームを平等にするために、モテる奴を分かれさせようと思うんだ。
だから、モテるコウと夜月には分かれてもらう」
「ほぉー。 それはいいかも」
「確かに二人が同じチームだったら、絶対に女子はそのチームに票を入れるからな。 そしたら勝負になんねぇし。 賛成!」
「そこで、だ!」
ここで突然、自信あり気に未来は人差し指を彼らへ向かって突き出し、椎野と御子柴の会話に割り込んだ。
「もう一つチーム分けにこだわったことがある。 それは、仲のいい奴も分かれさせようと思ってさ。 ほら、特に仲がいい奴らが同じチームだと、チーム内で偏りが出るだろ?」
「え? それって・・・」
その言葉を聞いて、優は我慢できずに小さな声でそう口を挟む。 それはきっと、コウと分かれるのが嫌だと思ったのだろう。
だが優が不安そうな表情を見せるのに対し、未来はそんなことには気にせず淡々とした口調で話を進めていく。
「そう考えて、優のチームには夜月、ユイのチームにはコウが入ってもらう」
「え、待ってよ。 本当に俺、コウと分かれるの?」
「仕方ねぇだろ、チームが分かれるだけだからこのくらい我慢しろ。 別に二人の仲を悪くさせようだなんて思っていないから。 俺だって、悠斗と分かれる予定だぜ」
「・・・」
その言葉を聞き、優は何も反論せず黙り込んだ。
―――優は本当にコウのことが好きなんだな。
結人は落ち込んでいる彼に同情の目を向けるが、他では違う会話が繰り広げられていた。
「つか、ダンスが上手い奴っていんの?」
「そりゃあ、夜月とコウだろ」
「あぁ、そっか。 なら丁度いいな」
椎野と御子紫が二人で勝手に解決しているのをよそに、未来は再び口を開く。
「で、次ー! 盛り上げ役の椎野と御子紫にも、分かれてもらう。 御子紫はユイに異常な程尊敬していて何か気持ち悪いから、二人には分かれてもらうぞー。
だからユイのチームには椎野で、優のチームには御子紫!」
「え、おい!」
「はい次―、真宮と北野なんだけど。 真宮はユイと仲がいいから、分かれてもらうな。 真宮は優チームで、北野はユイチーム」
未来は突っ込みを入れている御子紫をスルーし、話を進めていく。 そんな彼に、御子柴は少しムキになった。
「いや未来、スルーすんなし! せめてスルーはすんなしッ!」
「はいはいユイは神様ですね分かりますよー」
彼は必死に突っ込んでくるが未来は棒読みでさらりと受け流し、この場を上手くやり過ごした。
「そんで、俺と悠斗なんだけど。 どっちに入ったらいいのかよく分かんなくて」
「よし、悠斗は俺らのチームな」
間を空けることなく、そう口にしたのは椎野だ。 だがその発言に、食い付いてくる者がいた。
「待てよ、悠斗は俺らのチームだ!」
「先に言った俺が勝ちー!」
「何だよそれ! ズルいぞ!」
「おい! そんなことを言って、俺に失礼だとは思わないのかお前ら!」
椎野と御子紫のくだらない言い合いに、未来は突っ込みを入れながら加わっていく。 その光景を見て、この場にいるみんなはどっと笑った。 この時間も幸せだ。
未来も含め椎野と御子紫でしばらく言い合った結果、結局悠斗は結人のチームに加わることになった。
まとめると、Aチームは優、夜月、御子紫、真宮、未来。 Bチームは結人、コウ、椎野、北野、悠斗。 未来が考えたわりには、結構いいチーム分けだと思う。
珍しい組み合わせだし、何か新しいものが発見できそうだ。
「よし! 俺たち結黄賊、みんなで青春を謳歌しようぜ!」
「ッ、おい未来! 結黄賊の名を大声で口に出すなよ!」
「別にいいだろ真宮。 今くらい、気合いを入れさせてくれてもさ」
未来が大空へ向かって片手を高く上げながら結黄賊の名を口にし、真宮はそれを聞いて慌てて小声で突っ込みを入れた。
結人も彼の発言を聞いて少し戸惑ったが、ここは人が来ないためギリセーフにしておいてやろうと思い、見過ごすことにする。
そして早速両チームに分かれ、曲を決めるところから始まった。
まず、優チームはというと――――
真宮 「何の曲にするー? やっぱりやるなら、カッコ良いダンスがいいよな」
未来 「優はどういうジャンルの歌が得意なんだ?」
優 「何でも歌えるよ!」
御子紫「じゃああれは? あのー、最近流行っているブレイクのヤツ!」
夜月 「あぁ・・・。 Shooting starか」
御子紫「ブレイクのところは、間奏だし優も一緒に踊ってさ。 夜月はブレイクできるのか?」
夜月 「いや、流石に練習しないとできないと思うけど」
御子紫「じゃあ藍梨さんを借りようぜ! そのブレイクのところを完璧にして踊るだけで、結構盛り上がるだろ」
未来 「ぶっちゃけさぁ、藍梨さんは絶対ユイたちのチームに票を入れるよなー」
優 「大丈夫だって、負けないように俺たちも頑張れば!」
真宮 「じゃあ、とりあえず俺たちはShooting starに決まりな」
御子紫「おう! 絶対完成度の高いものにするぞ! そんじゃ、藍梨さんに早速教えてもらおう。 練習時間はたくさんあった方がいいからな」
一方、結人たちは――――
椎野「何の曲にするー?」
北野「ユイは何の曲歌いたい?」
結人「え、俺? んー・・・。 好きな曲とかでもいいのか?」
コウ「いいよ。 最近ハマっている曲とかは?」
結人「んー・・・。 あ、最近聞いているのはあれかな、Grow yellow glow」
悠斗「それ知ってる! あれ、歌詞が凄くいいよね」
椎野「あぁー・・・。 君はいつも本当の自分を隠していた 本当は苦しくても平気なフリして一人泣いていたんだろー・・・のヤツ?」
結人「それそれ! メロディも歌詞もよくて、最近家ではそればかり聴いているかな」
コウ「いいんじゃないかな。 向こうのチームは分からないけど、俺たちはダンスよりもユイの歌の方がメインってことで。 つーか、その曲何か俺たちに合ってるし」
椎野「ユイの甘い歌声をみんなに聴かせたら、絶対に瞬殺だな!」
結人「何だよ甘い歌声って。 何か気持ち悪いな」
悠斗「ダンスはどうする?」
北野「藍梨さんにオリジナルで作ってもらわない?」
悠斗「あ、それいいかも」
椎野「藍梨さーん! ちょっと、俺たちに協力してくれない? オリジナルの振り付けを作ってほしいんだ」
藍梨「うん! もちろんいいよ」
コウ「よし、これで俺たちは決まりだな」
未来「藍梨さーん。 ちょっとこっちへ来てくれるー?」
椎野「おい待て未来! 藍梨さんは今取り込み中だ」
未来「20分間でいいから、少しくらい貸してよ」
椎野「藍梨さんを何に使うんだよ」
結人「おいお前ら、藍梨を物扱いすんな・・・ッ!」
そのような感じで、両チーム共曲決めを終え、少しだけ振り付けに取りかかった。 見ていると、優たちはダンスに力を入れるようだ。
結人は一応ボーカルだが、少しは踊れるように振り付けを憶えた方がいいのだろうか。 それに、休みにはカラオケにでも行って歌の練習を――――
そして辺りはいつの間にか暗くなり、みんなはこの場で解散することになった。 それぞれのチームでの練習は、明日から本格的に始まる。
「結人、私振り付けを考えるの頑張るから、結人も歌頑張ってね。 結人の歌声、私大好きだから」
「おう。 ありがとな」
藍梨と一緒に帰る帰り道。
これからも、この当たり前な日常がずっと続けばいいのに――――
そしてまた一日、文化祭へのカウントダウンが進んだ。