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文化祭とクリアリーブル事件③




翌日 授業 沙楽学園1年5組


今日もクラスで、文化祭について話し合う。 今日は役決めだ。 内容は仕事が早い演劇部が、ある程度もう考えてくれていた。 流石である。

内容を簡単に言うと、とある世界のお話。 そこにある王国は、隣の国と仲が悪くいつも抗争を起こしている関係だった。 そしてその王国には、ある一人のへっぽこ兵士がいる。 
彼は戦に負け仲間からいじめを受けるが、そこで王様が声をかけるのだ。 その言葉により、兵士は生まれ変わったかのように翌日の抗争では活躍し仲間から慕われる。 
そんな感じのストーリー。

―――15分内でのストーリーでは丁度いいな。 
―――主役は、へっぽこ兵士か・・・。 
役者はクラスの半分くらいが必要で、残りの半分は城とかを作る物作りに回ることになった。
「主人公はともかく、問題は王様と王妃だよなー。 特に一番重要なのは王様だろ」
「王様の言葉によって、物語は大きく変わるからな」
「そこでその役にピッタリなのはー・・・? 色折!」
「・・・え?」
彼らの会話をぼんやりと聞いていると、突然結人の名が男子の口から発せられた。 あまりにも流れが早過ぎて、思考が追い付けなくなる。
―――俺が王様役?
「いいじゃんいいじゃん! 王様が結人くんで、その王妃が藍梨ちゃん!」
「いいねそれ! カップル同士だし、羨ましいわぁー」
クラスの女子が続けて藍梨の名を挙げ、みんなは勝手に盛り上がっていた。 王妃はそんなに台詞はないが、藍梨は目立ちやすい役でもいいのだろうか。
そのようなことを考えていると、話はまたもや自然と進み出す。
「藍梨ちゃん、王妃やってよ! 結人くんの妻役だよ?」
「え? う、うん・・・。 結人が、やるなら・・・」

―――・・・マジかよ。

「よし、じゃあ決定ー! 七瀬さん、黒板に書いて書いて!」
男子にそう促され、藍梨は戸惑いながらも黒板に結人と自分の名を書いていく。 結人は何も口を挟むことができず、書き続ける彼女の姿を横で見ていることしかできなかった。
―――こんなにいいポジションを、俺がやってもいいのかな・・・。
「じゃああとは主役だなー」
「主役は櫻井がやれよ」
「お、いいねぇ。 櫻井がやったら?」

―――・・・櫻井? 

そのようなことを考えていると話は更に先へと進んでおり、突然新たな名を挙げられその男子の方へ視線を向ける。
彼は教室の真ん中の席より少し前にいて、物静かな雰囲気を醸し出す男子生徒。 櫻井和樹(サクライカズキ)。 特徴はあまりなく、授業も真面目に取り組んでいる大人しい少年だ。
あまり彼と関わったことはないが、結人から見て主役に向いているタイプではない。
「え・・・。 俺?」
「いけよ。 主役」
「お前ならできるさー」
だが何故だかそんな櫻井に、たくさんの指名が入る。 そこで彼らの光景を見て、違和感を憶えた。 
―――櫻井に何かあるのか? 
―――どう見ても、アイツは嫌がっているようにしか見えないが・・・。
「えっと・・・。 櫻井? 主役できるのか?」
そこで結人は、直接櫻井に聞いてみる。 彼の意志を、確認するために。
「あぁ・・・。 ・・・うん、やるよ」
櫻井は周りの目を気にしながら、俯き加減で小さな声を出してそう言った。 だが彼を見る限り“主役をやれて嬉しい”という表情は一切窺えない。
―――・・・周りに無理矢理やらされているだけじゃないだろうな。
だがここで真相を突き止めようとしても厄介なことになるかもしれないため、一応主役は櫻井に決まり授業を終えた。 

そして授業を終えてすぐに、結人は彼のもとへ向かう。
「なぁ、櫻井。 本当に主役をやりたいのか? 嫌だったら言えよ?」
「うん・・・。 でも、大丈夫だよ。 俺・・・主役を、やりたいから・・・」
そう言われ、身を乗り出していた体勢を元へ戻し心の中で溜息をつく。
―――まぁ・・・本人がそう言うなら仕方がないか。 
―――ここはいったん、櫻井に主役を任せてみよう。
あまり納得はいかないが自分にそう言い聞かせ、そのまま4組へ行き伊達を呼んだ。 

そして彼がこちらへ来ると、前置きをせず早速用件を口にする。
「伊達は櫻井和樹って奴と、同じ中学だったか?」
「櫻井? あぁ、そうだよ」
「櫻井和樹って、どんな奴なんだよ」
どうしても櫻井のことが気になり、彼の情報を少しでも得ようと伊達に尋ねてみた。 そしたら丁寧に、その少年について話してくれる。
「んー、よく周りからからかわれていることが多いかな。 ほら、アイツは口下手なんだよ。 人と話すことが苦手でさ。
 だから櫻井に話しかけても、おどおどした感じで返事をしたりするから、よりからかわれるんだ。 だからみんな、櫻井を相手にして遊んでいる。
 まだからかうだけで、いじめに進展していないことがまだいいけど」
「・・・」

―――ふーん・・・口下手、か。 
―――やっぱり、他の奴らに言われて無理矢理主役を承諾したのかな。 
―――だとしたら、可哀想な気もするが・・・。
―――櫻井が自ら主役をやりたいと言ったんだ。 
―――しばらくは様子を見ていよう。 
―――まだ文化祭まで、時間はあるしな。

一度櫻井のことが気になり出すと放っておくことができなくなり、しばらくは彼のことを観察することにした。


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