文化祭とクリアリーブル事件②
放課後 路上
「ユイー! 5組は文化祭の出し物、何に決まったんだよー」
帰り道、みんなと一緒に公園へ向かいながら歩いていると、未来が突然結人の背中に乗りかかりそう言ってくる。
「ユイー! ねぇねぇ、聞いてよ! 俺たちのクラスで決まった出し物ー!」
未来の質問に答えようとすると優もいきなり目の前に現れ、怒っているのか喜んでいるのかよく分からない表情でそう言ってきた。
「何だよ、優たちの出し物は」
本当は未来の問いを先に答えたかったのだが“早く聞いてほしい”という雰囲気を醸し出している優を優先し、仕方なく聞いてみる。
「あのね! 俺たち、男装女装コンテストをやるんだって!」
「男装女装?」
詳しく内容を聞くと、その名の通りクラスのみんながそれぞれ違う性別の衣装を着て、ステージの上を堂々と歩く――――というものらしい。 メイクも兼ねて。
結構本格的なコンテストだ。
「何だよ、優にピッタリじゃねぇか」
先程まで結人の背中に乗っかっていた未来はいつの間にか隣へ来ていて、笑いながら優にそう言った。
「俺は好きで女装したんじゃないし!」
「俺だってやりたくねぇよ」
優が怒っている中、コウも結人たちの会話に不機嫌そうに入り込んでくる。
「あぁ、そうか。 コウもやんのか。 イケメンであるコウが女装をしたら、どうなんのかねー? 今からでも楽しみだわー」
未来は相変わらずこの場に合わない発言をし、更に彼の機嫌を悪くさせた。
「未来、いい加減にしろよ」
「悪い悪い」
コウの声が突然低くなりそのことに怯えたのか、やっと未来も調子に乗っていたことを自覚したようだ。
「まだそっちの方がいいよ! 俺たちなんて合唱だぜ? やってらんねー」
そう言ってきたのは椎野。
―――3組は合唱か。
―――練習が大変そうだな。
「歌が上手い女子がいるから、その人がリーダーとなってやるんだって。 俺もあまりやりたくないけど」
北野が苦笑いをしながら、そう言って話に入ってくる。
「女装より合唱の方が恥ずかしくないじゃんー!」
優は頬を膨らましながら、椎野たちに向かってそう言った。
―――優がそれをやると、何か可愛いな。
「御子紫は何をやるんだー?」
そこで未来は、近くにいる御子紫にさり気なく話題を振る。
「んー? 俺たちはお笑いだって。 いくつかのグループに分かれてさ。 それで、それぞれのグループでお笑いのネタを考えて、ステージで披露!」
「へぇ、何それめっちゃ面白そう!」
「御子紫のグループ、期待してっから」
未来と椎野がお笑いということで、すぐに食い付いてきた。
―――お笑いかぁ。
―――その案は出てこなかったな。
―――1組は俺から見て元気なクラスだから、ピッタリかも。
「そんで? ユイたちは何をやんだよ」
話がひと段落したところで、改まって未来がそう聞いてくる。 そして、やっと結人はその問いに答えた。
「俺たちは劇だよ」
「お、マジで!? 俺たちも劇!」
「え、まさかの被り!? じゃあ、どっちの劇の方が完成度高いか勝負だな」
「望むところだ」
―――4組と被ったか。
―――まぁ、ステージでやるもんって言ったら劇は定番だからな。
―――4組のも楽しみだ。
―――どんな内容の劇をやるんだろう。
みんなと話しているうちに公園へ着き、みんなはまた他愛のない話で盛り上がる。 そんな中、またあの少年が口を開いた。
「なぁ! 俺たちも、文化祭のいい思い出を作ろうぜ!」
そう――――未来だ。 未来がブランコの上に立ちながら、みんなに向かって笑顔でそう言った。
「文化祭のいい思い出?」
「例えば?」
「ユーシって、あるだろ? あれに参加するんだよ。 俺たちが二つのグループに分かれて、勝負しようぜ!」
ユーシ。 それは沙楽学園の文化祭内で行われる、イベントの一つだ。 そのユーシというのは、誰でも参加がOKで何をやってもいい。
ステージの上で目立ちたい人が、何かしらを披露する。 定番なのはバンドやダンスだ。 自分の得意なものをみんなに披露する者もいた。
そのユーシは1年の出し物が終わった後に行われる。 そしてユーシが終わった後、よかったチームに一人一票を投票する仕組みだ。
それも終わった後は生徒は皆解散し、2年の教室へ行ったり模擬店へ行ったりして文化祭の残りの時間を楽しむ。
そして文化祭の終わりに、上位3位のチームが発表されることになっていた。
そのユーシに、未来は『出よう』と言っている。 どうやらみんなも、その意見に賛成しているようだ。 披露する内容は、みんなの意見により歌とダンス対決に決まった。
「よし決まり! チーム分けは責任を持って、この関口未来が平等に決める。 それでいいな!」