第53話 合流した相手達と
「あ、ありがとう……」
「あたしも迂闊だったよ。君が男だから、くじが当たった時の結果を予想しておくのを忘れてた」
誰もいないことを確認してから離してくれても、僕はまだまだドキドキが収まらなかった。
手とか髪以外で、女の子の柔らかいとこに間接的に触れるのはお母さん以来なかったもので。
それはともかく、
「この石って、男に当たるものなの……?」
綺麗なハート型の水色の石。
見てる分には可愛いとしか思えないけど、何か仕掛けがあったみたいだから。
その事を聞くと、エリーちゃんは自分のピンクの石を一度見てから、小さく息を吐いた。
「ああ言うイベントでは、魔法師が術式で組み込んで当てるようになってるんだ。創立祭のメインイベントの一つだから、街の連中は知ってるんだよ」
「じゃ、じゃあ、あの言い訳って……」
「司会の奴が言ってたように、前例は少ないけどたしかにあったのは聞いたことがあるよ。ただ……少し伝説じみたのだから、まずいね」
「と言うと?」
「最近冒険者達が落ち着いてきただろ? それなのに、さっきの騒ぎ……休み明けとか絶対押しかけて来そうだ」
「うわぁ……」
お客さんじゃない人達まで僕に押しかけて来そうだったし、それはあながち間違いじゃないかも。
二人で困ったなぁ、ってため息を吐いてたら右の通路から足音が聞こえてきた!
「もう⁉︎」
「ここは中央じゃないのに、そんなはず……ん?」
エリーちゃんは武器を出そうとしたが、耳に届いた話し声に壁に体を寄せた。僕も、とりあえずそれにならった。
「ど、どうしたの?」
「ちょっと静かに」
しーっと言われたから素直に黙った。
その直後に、僕の耳にも向こうの会話が届いてきた。
「なーんか、広場とか騒がしかったよねー?」
「演舞?は終わったらしい。けど、走ってた」
「行かなくて正解だったな。レイスの傷に触る」
「俺もう治った言ったやろ⁉︎」
「どーこーがー?」
「げっふ⁉︎ ケイン、おま!」
女の子は一人だけど、全員聞き覚えのある人達ばかりだ。
これなら大丈夫かとエリーちゃんと頷き合い、姿を見せることにした。
「クラウス君!」
僕が大声で呼べば、クラウス君もだけど他の三人も目を丸くしながら気づいてくれました。
「スバル? 店は……と、エリーも」
「あっれー? なんでこんなとこにいんのー?」
それはこっちも聞きたいけど、僕の姿を目にしたレイスさんの震えっぷりの方に目が向いてしまう。
まるで、この世のものじゃない恐ろしいモノを見たような。
(けどまあ、好きになりかけてた?相手が男だったらそうなるよね……)
麻痺が回復してからの好意的な態度とは真逆過ぎたんで、苦笑いするしかない。
「あ、そうか。レイス、この前に店長さんの性別を知ったから」
黙ってたアクアちゃんにも、やっぱりもう伝わってたみたい。
だけど、レイスさんのように引くことはなくて至って普通。表情は相変わらず読み取りにくいけど。
「アクアは知ったの最後だしねー?」
「解せぬ……美人で可愛いのに、男って解せない」
「けど、事実だしー?」
ケインさんと仲が良いのか、アクアちゃんは髪を三つ編みにいじられてても動揺しない。
むしろ、僕へのジェラシーのようなのが向けられてくるので、少し怖いです!
「え、えーと……クラウス君達は休憩、とか?」
裏通りっぽいここに来るとしたらそれかなぁと思って聞けば、クラウス君は苦笑いしてくれた。
「アクアが、露店で際限なく食うからな? 歩き疲れたのもあるし、なんか大通りが騒がしかったんで」
「「……騒がしい、ね」」
「そう言う二人こそ、なんでまた?」
これはもう言うしかないかな、と決めました。
だけど、説明は僕じゃなくエリーちゃんがしてくれた。
「最終日のメインイベントに、この石を引き当てるくじがあるんだ。それをあたしとスバルがたまたま引き当てたんだけど……」
「「「けど?」」」
「あんた達は事情を知ってるから話せるけど、スバルは本当は男。だから、男が引き当てる石を掴んだんだ」
「こ、これです……」
形は同じだけど、色は違う石に皆さんはすぐにピンと来なかったのか首をひねるだけ。
もちろん、補足説明はします。
「なんとなく予想はしてるだろうけど、アシュレインの名物くじ『恋みくじ』ってイベントの景品なんだよ。引き当てたやつに、未婚者ならその相手が。既婚者なら子宝の縁が恵まれるとかね?」
その詳細までは知らなかったんで関心しかけたけど、恋に縁があるようでなかった僕にもそのお相手が?
一瞬、エリーちゃんが浮かんじゃったけどすぐに頭の隅へ追いやった。今はのんきに考えてる時じゃないから。
「あっはっはっは⁉︎ え、何? 魔法の触媒のせいで、店長さん公開処刑になったわけ?」
「ケイン、笑い過ぎ」
「ごっめーん!」
いきなり笑い出すケインさんを、アクアちゃんが軽くポコって叩いたので落ち着かせてくれました。
まさか一人だけでも大笑いされるとは思わなかったけど、クラウス君は少し深刻な顔をしてた。
「それで追い詰められて逃げたのか?」
「そうじゃない。前例で女にも行くってミスがあったから今回もそれで誤魔化せた」
「けど、逃げ出してきたのは……まさか、会場じゃ逆に煽って男が押し寄せてきた?」
「せーかい」
そのためにテレポート?してきたのもエリーちゃんが言えば、またケインさんがお腹を抱えて笑いながら地面を転がった。
「結局は公開処刑って、おっもしろ‼︎」
「ケイン、笑い過ぎ」
今度は蹴りを食らわされたせいで、当たりどころが悪かったのかぴくぴくと痙攣し出しちゃった。
不憫なのはレイスさんだけかと思ったら、ケインさんも例外じゃなかったみたいです。
アクアちゃんはそんな状態のケインさんを転がしておくと、僕らの方にやってきた。
「逃げて正解。下手に対応してたら、あなた達だけじゃ対処出来なかったはず」
「あんなけ多けりゃぁね……」
結界があるとは言っても、キャロナちゃんは大丈夫か心配になったけど、エリーちゃんが口に出さないならなんとかなってるのかも。
「でも、それだとお店に戻るのもまずい。狙われる」
「やっぱ?」
「エリーさんはともかく、店……スバルさんはカツラとか服装は変えるべき」
「でも、どうやって……?」
服もだけど、カツラだなんて調達するツテはない。
すると、アクアちゃんの目が光った気がして、端でじっとしてたレイスさんに近づいていった。
「レイス、出して」
「お、俺の変装道具⁉︎」
「あれしかない。一時的措置だし、命の恩人でしょ? 少しの時間くらい、貸してあげていいはず」
「…………せやった」
大事なことを思い出したように気を引き締めて、大きく深呼吸をすると腰からポシェットのようなのを取り外した。
「背丈もそんな変わらんし……って、男に戻してええの?」
「ん、その方がいい。元に戻す方がかえって目立たないはず」
「俺もそう思うな? エリー、構わないか?」
「今日半日だし、ほとぼり冷めるまでならいいと思う」
なら決まり、となったけどもう少し奥に移動するのと、無理に起き上がらせたケインさんが警戒に回ってくれてから衣装とかを広げることに。
「細身やし、髪はちょい長い方がいいなぁ? 黒は目立つから……エリーちゃんと歩くならっても、目が茶色やと」
あーでもないこーでもないと、昨日カイト君が持ってた
次々出てくるカツラや衣装やらで、本当に四次元ポケットのようなアイテムに驚きと関心が湧き上がってくる。
(ああ言うの欲しいなぁ……)
冒険者じゃないけど、カイト君も持ってたしお金なら貯金が結構あるから買えるかも。買い出しとかに結構便利そうだから。
なんて、よそ事を考えかけてたところで、レイスさんが納得いくのを取り出していた。
「これくらいのこげ茶で少し長いのならバッチリや!」
たしかに、襟足が少し長めでクラウス君の髪型に近い感じ。
それをアクアちゃんから受け取り、エリーちゃんにつけ方を教わりながら被ってみた。思ったより蒸れなくて重くもない。
「次に服かー? 余所行き用は結構少ないからなぁ……」
なので、再びポシェットを漁り出していく。
やっぱり欲しくなるなぁって思ってたら、レイスさんは何故かぽんっと手を叩き出した。
「背格好ならケインとほぼ同じはずや!」
「呼んだー?」
警戒する様子が特になかったのか、前みたいに建物からすぐに飛び降りてきた。
レイスさんもだけど、冒険者さんってこう言う人が多いんだろうかと思ってたら誰かに腕を掴まれた。
「え?」
「ケインの隣に立って」
正体はアクアちゃんで、ぐいぐいと引っ張ってケインさんの隣に立たせようとしてきた。
なので、素直に従って彼の隣に立てば、たしかに背丈はほとんど変わらない。
「それやったら、ケインの服は俺が適当に貸すし、スバル……はんに貸したげて?」
「ん、りょーかい」
「む、無理に呼び方変えなくていいですよ?」
「せ、せやけど……一応俺歳下やし」
「え」
クラウス君とジェフは同い年って聞いてたけど、他のメンバーさんについては聞いてなかったからびっくり。
いくつ、って聞くとまだ20歳だって。
アクアちゃんは17歳で、ケインさんは20歳。
やっぱり冒険者さんやってるとしっかりしてるんだなぁって納得しました。
「着替えてくるけど、どれ持ってっていーい?」
「あとでアクアと回るやろ? 好きにせー」
「んじゃ、これー!」
本当に適当に掴んだケイン……君はクラウス君の背に隠れて着替え出した。
「あとでって……アクアちゃんとケイン君って」
「ん、よく言われるけど付き合ってる」
「そうなんだー。長いの?」
「もう、2年ちょいだよ!」
もう着替え終わったケイン君が、さっきまで来てた服を手にして僕らの前に立ってた。
すぐに渡されたので、僕もクラウス君の後ろを借りて着替えることに。
(男の子の服……)
異世界のは初めてだけど、この世界で置いたままの作業着以来だ。
ほんのちょっとワクワクしながら、ケイン君に前の通路を見張ってもらいつつ着替えることにしました。