第54話 事情を説明
「出来たっ」
「あ、サイズ問題ないみたいだねー?」
「うん!」
冒険者さんの余所行きでも、サイズが特に変わらなくて良かった。
ただ、ケイン君がすぐに上から下までジロジロ見られたけど、何か他で問題が?
「俺の服なのにー、店長さんが着るとなんでこうしっくりくるのかなぁ?」
「へ?」
鏡がないからなんとも言えないが、どうやら思った以上に似合ってるみたい。
気になってたクラウス君にも見てもらえれば、『ほー?』とか言われました。
「元はケインの服なのに、スバルが着れば貴族のお忍びとも思われるな?」
「褒めてるの?」
「もちろん」
貶されていないことはわかったけど、あんまりいい気分でもない。
レイス……君やアクアちゃんの方を向いても頷かれるだけで、エリーちゃんは何故か少し顔を赤くしてました。
「エリーちゃん?」
「い、いや、い、いいんじゃ、ない?」
「何でそないに動揺してるん?」
「スバルさんが美少女から、『美少年』になったからじゃ?」
「はい?」
そうなの?って首を傾げたら、エリーちゃん以外首を縦に振った。
「とにかく、最初は俺達が盾役になって誘導しよう。と言っても、店には押しかけがいるかもしれないから……ジェフ達との合流もあるし、ひとまずそっちに行こうか?」
「ジェフ達はなんでいないの?」
「聞いてなかったか? 付き合い始めたんだよ、あの二人」
「「え⁉︎」」
ジェフは、シェリーさんの試験明けまでは告白しないって言ってたのに?
そんな僕らの疑問に気づいたのか、ケイン君がまたけらけら笑い出した。
「最初は、アクアに店長さんの性別教えるついでだったんだよねー?」
出発する前に、ケイン君が説明してくれることになりました。
★・ケイン視点・★
祭り当日なのに、二日連続でレイスの
もっとも、肝心のレイスは店長さんの性別をようやく知ったんで使い物にならない状態。
今日も今日とて、食事以外ずっとベッドで寝込んでた。時々、ぶつぶつと『嘘や』とか『あんな可愛ええのに……』って聞こえてくるが全部無視。
今まで店長さんと同じような美少女タイプに振られるのはよくあったし、振られるたんびにこんな感じにはなってたからさ。
ただ今回は、『男』と知らずに惚れかけてたから引きずりが長い。
(うるさいし、黙らせようかなぁ?)
俺だって、ジェフ達みたいにアクアと二人っきりでデートしたいよ。アクアは露店で買い食いしまくりたいだろうけど、俺もそう言うの好きだから付き合ってあげたい。
それにしても、ジェフとシェリーがちゃんと両想いになればなぁって計画立てて
(アクアが、ジェフの好みドンピシャになるくらいシェリーを着飾らせたって言うし?)
耐え切れたかどうかってのも聞いてみたい。
「……ケイン、今いい?」
ちょっとだけアクアに事を考えてたら、本人が男部屋に入ってきた。
ご丁寧に、うだうだしてるレイスをチョップで黙らせるって荒技繰り出してから、俺が座ってるベッドの横に腰かけた。
「どーした?」
「…………クラウスは?」
「試験までの訓練場所の下見。あとちょっとで帰ってくると思うよ?」
「……そう。じゃあ、出れない」
顔が曇っていくのは、アクアが素直になる時の状態だ。
俺は、彼女の柔らかい髪を撫でてあげた。
「お腹空いた?」
「……空いた」
こてんって、肩に頭を預けてくれるのも可愛い。
さらに、よしよしと髪を撫で続けた。
「ジェフ達が行ってるのに、露店巡り出来ないもんなー? 食堂のは飽きた?」
「ちょー飽きたっ」
メンバーの中でトップになるくらい、アクアは大食らいだ。
店長さんのパン屋では迷う事なくたくさん買ってたし、毎食毎食俺やクラウスより段違いに食べる。
そんな彼女が、美味しいものの食べ歩きが出来るお祭りの日にじっとしているのなんて、絶対耐えられない。
レイスの怪我や、脱走の件がなければ今頃俺と回れてたが、ジェフとシェリーの関係修復を優先して後回しになった。
一応、予定では明日レイスも含めて回る予定ではいるが、アクアとしては満足がいかないはず。
「あとでクラウスが戻ってきたら、久しぶりに『ケインスペシャル』を作ったげようか?」
「⁉︎ いいの⁉︎」
「もち」
スペシャルと言っても、あり合わせの材料でアクアの好みに合わせた料理に仕上げるだけ。
一応、実家が料理屋だったから旅立つまでは厨房の手伝いをしてたんで出来るくらいだ。
「リクエスト食材は?」
「チーズ!」
「店長さんのパン買ってから、チーズ多いのに?」
「けど、チーズ!」
「はいはい」
じゃあ、どうしようかなぁって二人で考え始めたら、今度はクラウスが戻ってきた。
「アクア、こっちに来てたのか?」
「ん」
「おっ帰りー、下見どうだった?」
「そっちは問題はない。ただ……」
「「ただ??」」
クラウスが言葉を詰まらせるのは珍しい。
それはアクアも同じだったので二人で首を傾げてたら、クラウスは言うのを決めたのか大きく咳払いをした。
「見てもらった方がいいか……二人とも、いいぞ」
誰?と思って扉を凝視してたら、すぐに出てきたのはジェフだった。
「よっ!」
「なーんだ、ジェフじゃん? そんな驚く事」
「よく見てケイン。ジェフが、シェリーと手繋いでる」
「はぁ⁉︎」
思わず大声を上げて奴の手を見れば、少し見えたシェリーと『恋人繋ぎ』をしていた!
「ちょ、なんで⁉︎」
関係修復するだけで、告白云々は試験明けって俺聞いたんですけど!
だけど、肝心のジェフはシェリーを引っ張りながら部屋に入ってきた。
「いやまぁ、成り行きで?」
「た、たたた、ただいま……」
シェリーはやっぱり恥ずかしがり屋さんだから、超真っ赤。服はアクアが着飾らせてあげた通り可愛いけど、今は褒めてあげる場合じゃない。
「ん、お帰り。さあ、レイスも起こすから詳しく!」
「ぐぇ⁉︎」
聞くには全員がいいだろうと、自分は黙らせたレイスをアクアが無理に起こした。傷には障ってないだろうが、結構痛そうな声だったが無視。
それよりも、ジェフ達の方が知りたかったから。
無理に起こさせたレイスは端のベッドに俺と、クラウスは真ん中のベッドでジェフと。アクアとシェリーはその反対に二人で腰掛けて、ジェフから話してもらうことになった。
「それで? 俺も詳しくは聞いてないが、どうしてシェリーと付き合うことになった?」
クラウスもまだ聞いてないんだ?
と言うことは、宿舎の入り口か途中かで合流したってところかな。
それはいいとして、隣で逃げ出そうとしてるレイスの髪を引っ張りながら答えを待った。
「そのこともだが、先にアクアに言っとくことがあるんだ」
「私?」
「レイスが寝込んでる理由、教えてねーだろ?」
「ってことはー?」
まさか、店長さんの性別をシェリーにも教えた?
無許可ではないと思うけど、レイスが更に逃げ出そうともがき出したから無理やり腕を首に回して引き止めた。
「スバルが、自分でシェリーにバラした。男だってこと」
「「は?」」
「む、あの人が……男?」
嘘でしょ?と拍子抜けしたけど、思ったより驚いてないアクアに今度はシェリーが口を開けた。
「えと、ね? ジェフとスバルさんがお友達って事を教えてもらったんだけど……うっかり私の前で『僕』って言ったの」
「たまたま、シェリー以外知ってる奴らしかいなかったから良かったけどよ?」
「そーなんだ?」
この街のギルマスとかは知ってるらしいから、その人達とかかな?
ともかく、シェリーにバレたのはある意味好都合だ。
(ずっと想ってたし、ジェフも気づいてた時には想ってたし)
好き合う者同士が付き合うのはいいことだ。
レイスはある意味大失恋だったから、今は俺の腕ん中でぐったりしてるが、まだ続きはあるので耳を傾けよう。
「そんで、用とか済ませてからスバルの事情とか説明したんだが……まあ、あれだ」
「シェリーが泣きそうになったから、我慢できずに告白?」
「……アクア、おっ前どっかで見てたか?」
「大体の想像がつくだけ。スバルさんの事情って?」
土産よりも、一人だけ知らないのにムッとしてるんだろうなぁ? 少しだけ早口になってるし。
「女のナリしてんのは、ギルマス達からの指示で一種の防衛手段だと。普通に男って信じられねぇのは、レイスでわかっただろ?」
「たしかに」
事情を説明されるのに、ほんの少し力が抜けたが聞く気ではあるようだ。
ジェフはまだ続けた。
「脱走ん時に、スバルも別件で襲われかけたしな? エリーがいくら護衛でも、あん時に俺の槍を持たせてなきゃ正体がバレる以上の恐怖を味あわせてたはずだ。レイスも、この意味くらいわかるだろ?」
「…………ああ」
完全に大人しくなったので俺も腕を外したが、レイスはそのままベッドに座る姿勢になっただけだ。
「だから、いずれこの街を離れる俺らはともかく……偽ってでも、生活に差し支えないようにするにはあの姿が一番らしい。俺は、最初にそれに気づいたんでダチにならねぇかって言っただけだ」
「はいはーい、結局聞けてないけど。なんでー?」
「……このタイミングで言えと?」
「うん!」
なんか面白い理由ってのは、クラウスから聞いてたし?
ウキウキしながら待ってれば、ジェフは大きくため息を吐いた。
「───────…………ガキん時に、姉貴とか親戚の奴らにいじられてきたんだ」
「と言うことは、ジェフにも女装癖があった?」
「今はねぇ‼︎」
「あっはっは!」
動き以外に気づく要素って何かなぁって思ってたけど、そんな黒歴史があったなんて!
レイスがぽかんとしてる横で俺は笑い転げるしかなかった。