うそつきピエロ④
数十分後 正彩公園
優は今、みんなと一緒にいつもの公園にいる。 ここには当然、コウの姿はない。 みんなはちゃんとここにいるのに、コウの姿だけがなかったのだ。
「優ー」
「ん? 何、未来」
「コウがいなくて寂しいのか」
「え、どうして?」
「だって優、何か今日静かだから」
「・・・」
寂しいのは、事実だった。 コウがいないなら、自分がここにいても意味がない。 彼がいないとつまらないなんて思ったのは、今が初めてだった。
「最近、コウは付き合い悪いよな」
「え? ・・・あぁ、そうだね」
未来の突然なその発言に、一瞬戸惑ってしまった。
―――未来も、コウのことを気にかけてくれていたんだ。
そのことに関しては、少し嬉しく思う。
「何かさぁ。 俺たちってたくさん仲間がいるけど、一人でも欠けると寂しく感じるよな」
「え?」
「コウがいないだけで、何かつまんねーっていうかさ。 何か、コウ抜きでは盛り上がれねぇし。 ・・・物足りねぇし。 優もそう思うだろ?」
「あ、うん。 そうだ・・・ね」
「優はコウのこと、何か聞いてんの?」
「何のこと?」
「最近付き合いが悪いことについてだよ。 アイツ、何か今やってんの?」
「・・・」
その問いに対し、優は――――何も答えられなかった。
『コウは今、誰かからいじめを受けているのかもしれない』と言ったら、それを聞いた未来は驚くことだろう。
本当は彼にもこのことを言いたかったのだが、自分からは言える立場ではないと思い口を噤む。 いや、立場とかではなく何と言ったらいいのか分からなかったのだ。
だって――――コウから今起きていることを何も聞かされていないし、何も知らないのだから。
だから何故彼が殴られたりしているのか、その理由が分かるまでは言いたくなかった。 未来にも――――他の、仲間たちにも。
「ごめん、俺もよくは知らないんだ」
「ふーん。 そうなんだ。 優なら、コウのことを知っていると思ったんだけどな」
「それってどういう意味?」
「ん? だから、コウの悩みとかは優なら知っていると思ってた、って意味だよ」
「・・・」
―――・・・違うよ、未来。
―――俺はコウのこと、何も知らないんだ。
―――何も分かっていないんだ。
―――・・・どうしてだろうね。
―――俺が悪いのかな、コウが悪いのかな?
―――・・・もう、よく分からないよ。
「優」
「・・・何?」
「コウがもし何かに悩んでんなら、アイツの悩みを聞いてやってくれよ。 まぁ、コウはあまり自分の悩みを打ち明けない奴ってのは、俺にだって分かっているけどさ。
でも俺やユイが聞くより、優の方が絶対に打ち明けやすいと思う。 ほら、二人は付き合い長いし。 まだ聞けていないんなら、コウに何があったのか聞いてみてくんねぇ?
多分・・・優にしか、言ってくれないと思うから」
未来が言ってくれた言葉は、とても嬉しかった。 コウは、優の方が悩みを打ち明けやすい。 優にしか、言ってくれない。
―――本当に・・・そうなのかな。
―――みんなよりも、俺になら言ってくれるのかな。
―――・・・だったら、もうちょっと頑張ってみようかな。
―――コウの本当の気持ちを知るために。
「うん、分かった。 俺、聞いてみるよ」
「おう。 頼んだぜ」
この後、みんなとたくさん楽しい話をした。 未来のおかげで気持ちが少し楽になったのだ。 そして、まだ諦めずに頑張ろうとも思った。
どうしようかと迷っていたら、未来が優しく手を差し伸べてくれた。 だから彼には感謝している。 今度は、自分がコウに手を差し伸べる番だ。
気付いたら、時刻は18時半を過ぎていた。 みんなとはこのまま解散し、その足で本屋へ向かおうとする。 優はある雑誌を気に入っており、それを毎月買っていた。
それは“Love Love School”というタイトルで、略して“ラブスク”と呼んでいる者が多い。 また、それには若い男性モデルが主に出ていた。
だけど男子ファッションだけでなく、女子向けの学校や職場で使える恋愛テクや占いなども記載されていて、若い男女共に人気のある雑誌だ。
結黄賊の中でも流行っていて、ほとんどの仲間が毎月買っている。
男性モデルはみんなカッコ良いしファッションの勉強にもなるし、優にとってもためになる雑誌だった。
―――そういえば今日、コウに『早く帰れ』って、言われていたけど・・・。
時刻は、現在20時を過ぎている。
―――遅くなっちゃったな。
―――でもいいよね、今日くらい。
優はお気に入りの雑誌を買えたことに満足し、このまま自分の家へと向かって歩き出した。