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短編

 暗闇の中……
 彼女はゆっくりと男に忍びより……

 プスリと刺した。
 彼女は滴る血を貪ると、静かに去った。
 刺された男は、横たわり眠るように落ちていった……

 雌の本能なのだろうか……
 彼女は、美味しそうなエモノを見つけさえすれば、誰でもいいのだ。
 彼女は、体を寄せては、濃厚なキスを行っていた。

 その女の行為は、まさに「雌」と言うに相応しかった。

 彼女だけじゃない…
 もう世界の全てのソレは、本能通りに忠実に生きる雌なのだ……

 ある一匹の雌は、体を力強く叩かれ、体をぴくぴく痙攣して死んだ……。

 またある雌は、毒を全身に浴びせられ命を落としていった。

 何も男だけに殺される訳では無い……
 時には女に殺される事もある。
 理由は至ってシンプル。

「目の前を通ったから…」

 雌を殺す理由は、それで十分なのだ……

 やがて雌は、子供を身ごもった。

 雌は、それでも……
 それでも、エモノを見つけては、ゆっくりと近付いては、プスリと刺しては、滴る血を飲んでいた。
 まるで、それが主食でもあるかのように刺し続けていた。

 中には刺された事に気付かないモノさえ居る位、彼女達は、刺す事に長けていた。

 ベットで横になっていると、彼女が頬に濃厚なキスをして来た。

 彼女がキスをするのは、俺にだけじゃない……

 もしかしたら、隣りに住む親父ともしているのかもしれない……

 いや、もう誰を済ませているかさえ、想像さえできなくなった……

 気付いた時、俺は彼女の頭を体を叩いていた。

 ほんの一撃だった。
 軽い一撃のつもりだった。
 彼女は、倒れこむようにゆらゆらと落ちて行った。

 俺の手には、べっとりと彼女の血がついていた。

 怖くなって手を、すぐに水道水でその血を洗い流した。
 彼女の遺体は、恐らく今頃、焼却炉の中で燃えているだろう……

 また別の雌がやってきた…
 また、殺さなきゃ……
 また、殺さなきゃ……

 殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ……

 また、蚊を殺さなきゃ……

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