第14話 夕飯にパンを食べながら
★・シェリー視点・★
「おいしー!」
クエスト中に食べるクリームパンもだけど、食事用のパンもやっぱり美味しい!
今は、宿舎でお風呂に入ってから男部屋に集まって夕飯を食べている最中。メニューはそれぞれ自分で買ったスバルさんのパン。
私が今食べてるのは、定番らしいロールパンの卵とコールスローが挟んであるの。
「冷めてても卵とろっとろだしケチャップと合うよぉ。コールスローもこんな美味しかったんだぁ」
野菜は嫌いじゃないけど、野営じゃスープにしか使わないから、サラダなんてお店に行く時も頼むかどうかなくらいだった。
だけど、このマヨネーズのサラダは少ししんなりしてても美味しい。パンとならむしろ食べやすいかも。
「ん、このチーズパンも絶品」
「……おっきいね」
パーティーの中じゃ大食い筆頭のアクアは、自分の顔くらい大きな楕円形のパンを頬張っていた。
パンの表面には焼けたチーズが張り付いてる感じで、焦げた部分もカリカリで美味しそう。
もう何個目かは知らないが、相変わらず吸い込むように食べている。
「チーズ以外にマヨネーズと黒胡椒が入ってて、飽きない。もう一個買えば良かった」
「そんなに?……あれ? なんか、肌綺麗になってない?」
「……そう?」
ちょっとだけ彼女のほっぺを触ったら、やっぱりハリが違う。
もちもちしてるだけじゃなくって、なんだかぷるぷるしてきてるような。
「お風呂上がりいつもこうだっけ⁉︎」
「ひょっとしたら、補正の効果かも?」
「え、だったら」
「また買いに行けばいい。これは私の」
「けちぃ」
だけど、こっちが分けようにも自分のはだいぶ食べちゃったからね。
残っていたロールパンを食べながら他のみんなを見たら、レイスはまだスバルさんを思い出してるのかサンドイッチを持ったままぼーっとしていた。
「おーい、レイスぅ? 大丈夫ー?」
ケインが彼の前で手を振っても、効果なし。
少し様子見してたが、諦めるとケインは食べかけてたクロワッサンを口に入れた。
「これもさくさくしてて美味しーっ。あーあ、あの甘いのが買えなかったの残念だなぁ」
「試作だったんならしょーがねぇだろ? お、このウィンナーいける!」
ジェフは私と同じロールパンを食べてたけど、ウィンナーの弾ける音が離れてても聞こえた。
クリームパンも買うから控えめにしたんだけど、あれも買っておけば良かったと思うくらい美味しそう。
「む、ウィンナーない」
もうチーズのを食べ終わっていたアクアは、ジェフを羨ましげに見ていた。だけどすぐに次のパンに移ることにして紙袋の山を漁り出す。
私も残り少ないのを食べようとしたが、さっきのチーズパンの補正とかを知りたくなってクラウスの方を向いた。
「クラウスー、スバルさんからメモ預かってたよね?」
「ん? ああ、これか?」
何かのサンドイッチを食べてたクラウスが、空の紙袋からメモの束を取り出してくれた。
買った商品全部なので、ちょっとした辞書並みに分厚い。
「お? それがパンの補正についてのやつか?」
「ジェフも見る?」
「他は後でいいが、今食ったやつとか知りてぇな?」
「あ、おっれもー!」
「……俺のは卵とハムやでぇ」
「ん、チーズパン知りたい」
「俺は、トマトとベーコンのサンドイッチだったな?」
全員が気になってしまったので、食べるのを中断して机の上へメモを広げることに。
読み上げるのはもちろんリーダーのクラウスだ。
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【スバル特製ロールパンサンド】
《スクランブルエッグとコールスロー》
・体力回復が70%まで跳ね上がる
・ふわトロスクランブルエッグはケチャップとの相性抜群。コールスローも手作りマヨネーズとある隠し味で酸味がキツくなく、パンとよく合う!
《ボイルソーセージとコールスロー(マスタード付き)》
・精神疲労(鬱気味、ストレス)を軽減率60%まで引き上げる
・肉屋が誇るソーセージを絶妙に茹で上げ、食感が楽しめる一品。コールスローもだが少量のマスタードもまた舌を刺激して気分爽快!
【スバル特製サンドイッチ】
《卵とハムレタス》
・魔力回復を65%まで跳ね上がる
→片方の味を食べれば数値は半減
・ふわふわの白い生地にシャキシャキのレタスとハムの塩っ気がやみつき確実! 卵も手作りマヨネーズで酸味がくどくない
《トマトとベーコンレタス》
・疲労(精神より筋肉の方)回復を70%近くまで促してくれる
→片方だけでは、数値半減
・トマトはマリネしてるのにフルーティー! ベーコンはなんと手製(店主が凝り性なので)のを惜しげもなく使用。分厚くて食べ応えあり
【スバル特製クロワッサン】
《プレーン》
・空腹時に食べると満腹感を7割程まで満たしてくれる
・バターたっぷり、丁寧な仕込みのお陰で冷めてもさっくさく。これは様々な加工にも使えるが単体でも朝ごはんにぴったり!
【スバル特製チーズパン】
《マヨネーズ入り》
・軽傷はもちろん、中傷までなら完全回復
→そのせいか、女性には肌荒れ改善の効果も期待
・固くて不人気のあるチーズを、焼く事で食べやすく匂いもきつくないようにさせた一品! 外側も内側も惜しみなくチーズを使い、中はマヨネーズと胡椒も混ぜ込んであるのでサイズの割に飽きがこない
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「それと、日持ちしにくいのでお早めに食べてください。だそうだ」
「どれもー?」
「いや、俺達が普段食べるようなのはまだ数日は持つらしい。けど、シェリーがよく買うようなのとかは二日が限度。『なまもの』って言うのは、最悪その日のうちに食べないと腹下すそうだ」
エリーさんが言ってたことも、メモにはきちんと書かれていた。
今日スバルさんも言っていたけど、物によってはその日に廃棄するのは普通みたい。薬品のポーションとは違って食べ物だからって、結構残念がってた。
「だけど、これだけのパンをあんな小さい体でよく作れるよな? しかも、味はいいし効果も」
「それにちょー可愛いときた! 俺もうあのお嬢さん一筋やわ!」
「そう言って、どの子にも振られてきたでしょっ」
「おっ前は懲りろ!」
「ぐぇ⁉︎」
レイスの手が早い癖は
(スバルさんはたしかに可愛いし綺麗だし、いい人だけど)
女の私でも、レイスのような惚れっぽい人とお付き合いして欲しくないかも。レイスは仲間だけど、悪い人じゃなくてもそれはそれだ。
「……まあ、スバルさんはひとまず。このパンに頼り過ぎも良くないだろうが、せめてシェリーの昇格試験まではこの街にいようと思うがどうだ?」
「え、え⁉︎」
そんな話初耳だけど⁉︎
「「お、さんせー!」」
「ん、了解」
「……お、俺も……かまへん」
他のみんなも同じだったみたい。
レイスも目を覚ましながら聞いてたようで、ゆらゆらと手を上げていた。
「い……いいの?」
たしかに、この中でランクを上げられていないのは最近だと私だけだが。
嬉しくても、予定も色々なくはないのにって考えていたら、肩に大きな手が置かれた。
「俺達ぁパーティーだろ? メンバーのことで出来ることがありゃ優先するさ。なにせ、リーダーが提案してくれたんだしよ?」
「ジェフ……」
「俺の台詞全部持っていくなよ……」
「ま、いいだろ?」
温かい人達。
やっぱり、このパーティーに入れて良かったわ。
「うん。みんなありがとう!」
昇格試験、頑張らなきゃ!
「決まり。それとクラウス、君も滞在する理由が別にあるんじゃ? あの、エリーって店員さんとか」
「ちょ、アクア⁉︎ な、何を」
いきなりアクアが言い出したのに、クラウスが慌て出した。
これには全員の注目が集まった。
冷静であることが多い我らリーダーの慌てる姿なんて、戦闘中でも滅多にないからだ。
「エリーさんと話すの、聞こえてた。もしかして、例の件?」
「…………確証は、ない」
「けど、たしかめたいのなら止めない。協力はする」
「……サンキュ。シェリー達にも今度話すから」
「う、うん……」
最初は聞きたかったが、クラウスがそう言うのならと頷いた。
他のみんなも、リーダーの発言で追求はしなかった。
(事情を知らないのは無理ないけど……)
最後に加わったのは、この中じゃ私だから。
「とーこーろーでー」
重い空気をとっぱらうかのように、ケインが大きく声を上げた。
「アクア、もうパン残ってない?」
「……まだ、あるけど」
「俺まだ二個しか食べてないし、割り勘したんだからもうちょっとちょーだい!」
「む」
「あ、その顔! もしかして、ほとんど食べた⁉︎」
「彼氏とて、容赦しない」
パーティー内で唯一のカップルが、いつものように騒ぎ出してしまった。
アクアが残ってたパンの紙袋を全部確保して逃げ出し、それをケインが追いかけていく。
あっという間の出来事に、残された全員で大きくため息を吐いた。
「ありゃ結構時間かかるな……」
「なーんで付き合ってるんやろ?」
「お前も付き合えばわかるんじゃね?」
「スバルちゃんと!」
「「「無理」」」
「なんでシェリーまで⁉︎」
クラウスの事情が吹っ飛ぶくらい、いつもの調子に戻っていく。
ケインは本音を言っただけでも、こう言う時は本当にありがたかった。
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【サンドイッチの作り方のコツ その1】
由来以外にも、作り方のコツも少しずつ。
今回は、登場したサンドイッチの中でもトマト入れ方のコツになります。
水分の多いトマトを具にするのならば、スライスしてからタネを取り除き、キッチンペーパーに並べて塩を振ります。
ペーパーに水分を吸わせるのに、しばらく置いておきます。塩を振るのは味が凝縮されて、より美味しくなるんだとか。
サンドイッチに水分は大敵なので、スバルがロイズに言っていたマヨネーズやバターでパンをガードするのももちろんです。
ですが、みずみずしい野菜も丁寧に処理しないとパンがふにゃふにゃになるのでご注意を。
※なお、作り方についてはあくまで一例です。