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第3話 オープンロールパンサンド

「わぁ、広い!」

 今は誰もいないようだけど、電気じゃない魔石を使った光源の下に広がった厨房は、とんでもなく広かった。
 電化製品じゃないらしいけど、見た目はほとんど日本と変わらないくらいの設備。製菓学校の実習室を思い出しちゃうよ。

「一応、この街の商業ギルド本部だしな? 試作メインで使うことばっかだが、材料とかは好きに使え。パン生地もたしかあったな?」
「ロイズさんも料理を?」
「かみさんを少し手伝う程度だ。最近はあんま帰ってやれてねぇが」

 ロイズさんの奥さん、きっとグラマーな美人さんだろうなと勝手に想像。
 とにかく、作っていいそうなのでまずは生地の場所を教えてもらった。
 生地は白いと言うより黄味がかってるからバターロールなんかの生地かな?

(となれば、バターロールの方が成形しやすいし……)

 こっちではお昼でも朝ごはんもまだな僕にはちょうどいいのを思いついた。

「ロイズさん、パンに挟みたいものもあるんですけど」
「あ? サンドイッチ作んのか?」
「食パンを作るわけじゃないですが」
「まあいい。なんでも使え」

 許可をいただけたので、丁寧に手を洗ってから調理台に打ち粉をまいて、専用のヘラであるカッターと秤を使ってまず生地を均一に分ける。
 全部出来たら、麺棒を使いつつもバターロールに成形。
 シリコン製のシートは見当たらなかったので、厚手のクッキングシートを天板に敷いて生地達を乗せる。
 これを黄身の液、ドリュールを塗る前に発酵のベンチタイム。
 そんな長くは必要ないから、先に温めておいたオーブンの余熱の確認とコンロの使い方を教えてもらう。
 この世界じゃ魔法を使えない人達も多いから、鉱脈から採れる魔石の種類を調整して家電製品のようなものを使ってるそうだ。
 だからか、建物より生活用品の進化がすごいお陰で、使い方は元いた世界とほとんど同じ。
 魔石って、要は電池がわりみたい。

「具は、ボイルソーセージ。スクランブルエッグに、炙ったベーコン。野菜はレタスちぎって、キャベツや端野菜でコールスローかな?」
「……なんか、美味そうだな」

 ロイズさん、よだれ見えそうだよ。
 僕に見られないためにツバを飲み込んでももう遅い。
 けど、時間が限られてるからコールスローを先に仕込み、ベンチタイムが終わった生地にドリュールを塗ってからオーブンに入れる。
 タイマーはないから、ここからは勘が頼り。
 家の方じゃタイマーは念のために使うくらいで、おじいちゃんとお父さんはほとんど勘で動いてた。
 だから僕も始めはタイマーを積極的に使う側にはびっくりしたけど、環境によるんだなと納得。
 その経験がここで役に立つとは思わなかった。

「あ? カウント魔法とかねぇのか?」
「そもそも魔法がないんですよ」
「不便だなぁ?」

 カウント魔法と言うのは、文字通りカウントを刻む幻影魔法だそうだ。
 ロイズさんの使用目的は主に会議などで、意見が飛び交い過ぎるのに制限を設けてるらしいが。

「魔法適性もあとで見た方がいいか? 錬金師の職業(ジョブ)があるんならまず大丈夫だが」

 忘れてたけど、これご飯じゃなくて僕の職業適性を見るためだった。

(けど、美味しいものは作りたいから……)

 仕込みと片付けは並行しながらパンの焼きのことも忘れず、もういいかなと見つかったミトンを両手にはめてふたを開けた。
 開けた途端、バターと小麦のいい匂い。
 色艶も申し分ない出来だ。

「よし、出来た」

 焼き立ても美味しいが、今回はサンドを作るので台に置いてそのまま粗熱を取る。
 冷ましてる間に、用意しておいた具材をトレーに移し替えてスプーンやナイフを添えておく。

「バターにマスタード?」
「サンドイッチにする時にバターはパンにコクを足すだけじゃなく、野菜からの水分をはじいてくれる役割があるんです。マヨネーズとかでも出来ますよ」
「はー? かみさんとかは親に教わっただけって言ってたが」
「伝統ではありますね。マスタードは、少し刺激を足すのに使います。こっちのサンドイッチには使わないんですか?」
「ねぇな? ソーセージとかツマミのもんに添えるくらいだ」

 ではでは、せっかくなので食べていただこう。
 粗熱が取れてから、一つパンを持ち上げて温度を確認。ふにゃってしていなければ乾燥が多少できてる証拠なので、別で用意したペティナイフでパンの横に切り込みを入れる。
 縦でも構わないが、今回は実家と同じ横にしました。
 この切れ目に、バターを薄く塗って半分はマスタードを重ねる。
 次に、レタスかコールスロー。
 その次にスクランブルエッグ、ベーコンかボイルソーセージ。
 仕上げにケチャップを瓶からスプーンで軽く乗せる。冷蔵庫はあってもプラスチックは特にないみたい。冷蔵庫の内側は防水加工した木だったし。
 とにかく、全部のパンに具を挟み終えた時、事件?は起きた。


『錬金完了〜♪』


 いきなり、頭の中にゲーム音楽とナレーションみたいな女の子の声が聞こえてきた。
 だけど、気にする間も無くパンの皿達の上に薄青の文字盤みたいなのが浮かび上がった。




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【スバル特製ロールパンサンド】

・味によって、補正効果が違うよん!


《スクランブルエッグとコールスロー》
・体力回復が50%まで跳ね上がる
・体力に問題ない時は、美味しい美味しいロールパンサンド


《ベーコンとスクランブル(マスタード付き)》
・状態異常(主に毒、麻痺)を40%まで回復出来る
・特に何もない時は、以下略


《ボイルソーセージとコールスロー(マスタード付き)》
・精神疲労(鬱気味、ストレス)を軽減率45%まで引き上げる
・特に何もない時は、以下略



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 最初はおちゃらけた文章だったけど、あとはちゃんとパンに補正がついているのを教えてくれた。

「ほーぅ? 今回は、一から生地を作ってねぇからこの数値なのかもな?」
「見えるんですか?」
「鑑定眼持ってる奴ならな?」

 こう言う画面表示みたいなのは、この世界じゃ普通らしい。
 見られるのはロイズさんが言ったように、錬金師以外じゃ鑑定出来る人くらいだって。

「あとは、これを実証することくらいだが……いっそ冒険者ギルドに持ってくか?」
「い、いきなり、ですか?」
「普通に食べても美味いだろうが、お前の仕事をなんとかするには顧客がついた方がいいだろ?」
「そ、そうですね……」

 なので、何個かは二人で美味しくいただいてから包装して持って行くことに決まりました。
 その冒険者ギルドで、僕はエリーちゃんと出会うことになるのはこの時知らなかった。






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【ロールパンの由来】


日本のロールパンは、主にバターロールと呼ばれるタイプです。アメリカが発祥とも言われています。
ヨーロッパにももちろんありますが、柔らかいよりはハードタイプで糖分も油脂も少ないさっぱとした味わいだそうです。


*こんな感じにパンの豆知識も取り入れていこうと思いますノ

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