バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

執事コンテストと亀裂㉞




そんな時――――伊達と藍梨は、立川へ戻ってきていた。
「今日は楽しかった?」
「うん! とっても楽しかった」
そう言いながら、藍梨は伊達の目の前でニコニコ笑っている。 
―――このままずっと、藍梨と一緒に笑っていられたらいいのにな。
そんなことを考えながら、二人は他愛のない会話を繰り広げていた。 が――――その時。

―――ん・・・?
―――何だ? 
―――この声。

突然近くから、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
伊達は気になり、声のする方へ足を進めていくと――――そこには中学生くらいの男子二人が、不良たちに囲まれている光景が目に入る。
―――え、いじめ!? 
―――ここは、男として止めに入った方がいいのか? 
―――・・・うん、絶対にその方がいいよな。 
―――でも・・・またこの間みたいに、すげぇやられたりでもしたら・・・。
だが不良たちに囲まれて不安そうな顔をしている少年らを見て、自分に気合いを入れ直す。
―――いや、今そんなことは関係ない。 
―――やらないで後悔するより、やって後悔した方がマシだ!
―――その前に、藍梨をここから避難させないと。
「藍梨! ん・・・?」
彼女の名を呼ぶのと同時に、不良たちの後ろに迫ってくる人影が目に入り、思わず言葉を詰まらせ再び視線を彼らへ戻す。 
人影が不良たちに近付くにつれ、彼らの容姿もハッキリと見え――――伊達は、確信した。

―――・・・色折?

あの人影は伊達と藍梨もよく知っている者だった。 結人の他に、夜月もいる。 そしてもう一人、あの女性は――――
―――つか、どうして色折たちがこんなところに・・・ッ!
伊達はその場から動くことができず、しばらくその3人の行動を静かに見据えていた。 どうやら不良たちを見ながら、何か話し合っているみたいだ。

それから数分後――――ついに、その3人は動き出した。 一人の女性は不良たちから少し離れ、その反対に結人と夜月は少しずつ不良たちへ近付いていく。
―――おい・・・何をする気だよ。
そう思った――――その瞬間。
「・・・ッ!」
この時、伊達は見てしまった。 

結人と夜月が――――素手で、強そうな不良を相手に喧嘩しているところを。

―――何だよ、これ・・・ッ! 
―――どうして色折と八代が、喧嘩なんかしているんだよ!
結人たちが喧嘩している光景を目の当たりにした伊達は、目が釘づけとなっていた。
―――は? 
―――意味が・・・分かんねぇ。 

―――この間俺たちの前で喧嘩していた真宮や関口、中村も・・・みんな、同じ仲間だっていうのか!

そして今もなお、彼らから目を離せずにいる。 それはいい意味ではなく――――悪い意味で。
―――しかもみんな強いし、どこがただの高校生なんだ! 
―――もしここで問題でも起こしたら、色折たちは停学になるんだぞ!?
だがここで、伊達とは反対に冷静でいる者が一人いた。 そう――――藍梨だ。 伊達が今起きている出来事に困惑している中、彼女はただ無心でその光景を見据えていた。

―――どうして・・・藍梨はアイツらを見て、そんなに冷静でいられるんだよ。 
―――・・・アイツらのこと、やっぱり藍梨は何か知っているんじゃないのか?
―――じゃあ何でそのことを俺に隠す必要がある!
―――あぁ・・・余計に意味が分かんねぇ。
―――藍梨と色折たちは、一体どういう関係なんだよ。

「・・・行こう?」
「ッ・・・」
様々な疑問が頭に浮かび、全てが一直線に結ばれず混乱している中――――藍梨は、冷静な表情で伊達にそう言ってきた。
その言葉を聞いた後、彼女から視線を外しもう一度結人たちが喧嘩している姿を見る。

―――・・・もう、これ以上考えても無駄だ。 
―――俺は、関わらない方がいいってことだろ? 
―――そうだ、知らない方がいいという時もある。
―――今は・・・そういうことにしておこう。 

感情的になっている自分を何とか落ち着かせ、藍梨の方へ身体を向け直した。 そして先程の言葉に対し、伊達は返事をする。
「うん、行こうか」
そう言って――――二人は、この場を後にした。


しおり