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ポンコツ


「おい、女。一つ確認だが紋章士協会からお前に依頼があったのか? それとも紋章士協会の幹部から命令があったのか?」

「詐欺師如きに教える謂れは無い!」

「お前、協会に雇われた冒険者じゃ無いだろう?」

「……」

 女は黙り込んでしまうが、俺を睨み付ける殺気は更に膨れ上がっている。ここで拘束を解いたら二分以内には間違いなく殺されるな俺。

「ねえ……何がなんだか解らないんだけど。どうしてこの女の人はあたしの事を知っていてるのか、協会に戻れって言うのに協会に雇われた冒険者じゃ無いのか……」

 アケミが小声で俺に聞いてくる。大人しいと思ったら話について来てなかったのか……

「まず、コイツは紋章士協会が自前で持っている護衛専門部署の人間だろうな、居なかったか? 紋章士のお偉いさんが遠出をする時に警護をする連中」

「そう言えば……」

 この女は依頼された冒険者にしては感情が顔に乗り過ぎている。
 アケミ一人を拉致るのにこんな顔付きをしていたら、即バレ間違い無しで対策をうたれる事間違い無しだ。

「そこの下っ端だな。理由を深く聞かされていなくて、アケミみたいな体力雑魚紋章士を一人掻っ攫う位ならこんなので充分だろ……いや……買い物のお使いかな?」

 体力雑魚なのは人の事言えんが……

「なんで今更あたしなんかに協会が護衛を差し向けるのよ」

「お前はバカだが便利でしかも野放しにすると都合が悪いんだよ」

「はあ?」

「お前の記憶力はズバ抜けているからな、馬車に積載出来ない量の紋章本に足が生えて自分の力で歩いているようなもんだ。しかもお前の事だから協会幹部の連中しか閲覧出来ない様なヤバイ魔方陣を山程記憶してるんだろう?」

「そりゃあ……幹部の人達が地方に出向く際には良く連れて行かれたから自然と……」

 アケミはついっと視線を外すとそっぽを向いた。

 一目見ただけで記憶出来る特殊能力でかなり調子に乗ってたなコイツ。

「そんな歩く門外不出の紋章本がある日、自立したいとか寝言を言い出したんだ。協会は慌てたんだろうな、どうにかしてこのバカに首輪を付けなきゃってなあ」

「そりゃ、嫌がらせみたいのは受けたけど……紋章士は良い紙を独占するのが仕事みたいなものだし、紙を卸す商人を自分で見つけるのは自立の第一歩だし……」

 全財産を溶かした詐欺師の事を思い出したのかアケミの声のトーンが段々と小さくなっている。

「例えば詐欺師に全財産奪わせて、路頭に迷って物乞いとか娼館に身売りとかしているところを、正義感の強そうな紋章協会の命を受けた下っ端が助けるって感じかな? ニュアンスは大分違うが」

 先程から黙り込んいる下っ端女は顔色が悪いな。

「なあ、協会のお偉いさんにこう言われたんじゃないか? 紋章士を標的にした詐欺師に狙われているコイツを娼館もしくは奴隷商人から買い戻して来い。とか」

「なんで!?」

 俺に目線を合わせようともしなかった下っ端女が明らかに動揺しながら声を荒げる。目の中にあった殺意が驚きの色に変わっている。

「いや、クズの考えそうな事だろう? 紋章士を相手にした詐欺師の手口なんて協会に毎日の様に報告されているだろうから、詐欺師を協会で仕立て上げてアケミから全財産を引っ張るなんてお手の物だろう?」

「詐欺師もグルだと言うのか!」

「当たり前だろうが……でなけりゃこんな良いタイミングでお前が来る訳がない。娼館に身売りしていたら見受け金を支払い。道端で物乞いでもしていたら奴隷商人に拉致らせて奴隷売買で金を払う。その金は協会の予算から捻出される事だろうから、晴れて紋章士協会の共有財産として認定される訳だ。ついでに遠出の際には追加オプションとしてエロサービスが標準装備だ。良かったなアケミ。ハイスペックな紋章本として生まれ変われるぞ」

 アケミは心底嫌そうな顔をしてベロを出している。下っ端女は真っ青な顔で俯いている。

「嘘だ……」

「調べる方法はあるぞ?」

「何?!」

「協会に聞いてみたら良い。その代わりアケミを嵌めた詐欺師と同じ場所に行く事になるけどな」

「は?」

「は?」

 アケミと下っ端女が同時に疑問を投げかけて来た。

「ちょっと待て、お前が詐欺師だろう?!」

「ちょっと待ってよ! あの詐欺師が何処に居るか知ってるの?」

 この下っ端女もなかなかのポンコツだな……早目にリリースしておくか。

「先ず俺はアケミを嵌めた詐欺師じゃないぞ。それとアケミを嵌めた詐欺師の行き先だが二箇所程心当たりがある」

「なんと……」

「何処よ?」

「そうだなあ、水の中か土の中だろうな」

「どう言う事?」

「とっくに始末されているって事だよ。当たり前だろ? そんなヤバイ情報握っているんだから当然始末されるだろ。そこの下っ端女もアケミを連れて帰っても手ぶらで帰ってもどちらにせよ始末されるぞ」

 下っ端女が唇を震わせて真っ青な顔でこっちを睨みつけ始めた。
 ああ……また罵声を浴びせかけられるぞ……

「う……う、うわああああああああああん!」

 うわ……泣き出した。

 目を見開き大口を開けて鼻水をどばどば垂らしながらガン泣きである。

 アケミが非難の目付きで俺を見る。

「いや、まあ……これはお前のボスが最悪のクズ野郎だったらの話でな、例えば、これは最重要機密案件であるから同僚や家族にも今回の仕事内容は喋ってはいけない。とか、この案件を速やかに片付けて結果を出せば昇進間違い無しだ。重要ポストを空けて待っているぞ。とか言われた場合は始末される可能性が高いなあって事であって、今回に限った事では無いから元気出せ」

「全部言われだあああああ!」

 どうすりゃ良いんだよコンチクショウ!

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