第四話
この《レアリティ》と《レベル》が支配するこの異世界。
それは如実にステータスにも影響してくる。特に《レアリティ》によるレベルキャップはもうどうしようもない。
この場合、ステータスは倍以上違ってくる。
どう足掻いても数値の暴力で負けてしまうのだ。
ただ、唯一そのステータス枠に当てはまらないものがある。それは知恵と知識と発想だ。言い換えれば、頭脳である。
一応数値として知性を司る数値はあるが、それだけでは測れないのが頭脳である。
フィルニーアもその辺りは悟っているのだろうか、座学はとにかく厳しかった。
まぁ俺としても、この異世界についての知識が手に入るんだから、悪いことじゃあないんだけど。
今日はルルーシュリア時代という魔法文明が最も発達したという時代のことの座学だったな、確か。
俺は昨日の座学を思い出しながら、畑から森へ走っていた。原チャを追い抜かす勢いのスピードで。
森の中は木々をはじめとした障害物が多いので上下左右、瞬間的に判断しながら動くことになる。これが体を鍛えるのにちょうどいい。
当然生身の所業ではない。これは
この魔法は便利だからと数か月前に習得させられて、今日までみっちりと鍛えられた。
「おーおー、タイム更新だね」
俺が森の奥にある丸太小屋に到着すると、先回りしていたフィルニーアが箒に腰掛けながらぱちぱちと拍手を送ってきた。
はっきり言って嫌味だ。
この
「よし座学始めるよ。さっさとおいで」
「いや、少しは休憩させろよ」
「はーぁ? 息一つあがってないじゃないか。必要ないだろ」
「それが十キロも走らせた息子に言うセリフかよ!」
「アイスルムスコダカラダヨ」
「片言な棒読みにも程があんだろ……」
俺はガックリと肩を落とした。
丸太小屋の中は良くも悪くも魔女の館そのものだ。ワケのわからない薬品やら壺やら、何かのホルマリン漬けやら。
だから良い匂いではないのだけれど、人間慣れと言うものは素晴らしいものだ。もうなんとも思わない。
俺は古いテーブルを机代わりに、切り株の椅子に座った。
「それじゃあ、今日は歴史の座学と言いたいとこだけど」
黒板の前で、フィルニーアはチョークではなく杖を持った。
「グラナダ。スキルウィンドウを開きな」
「おう」
俺は返事をしながら空中で人差し指と中指を重ね、上から下へ下ろす。すると、半透明なウィンドウが開き、文字が並び出す。
これは《パーソナルウィンドウ》だ。分かりやすく言えばステータス画面である。
俺はこの画面が好きじゃない。自分のレアリティ《R》が大きく表示されているからだ。相手から見えなくする機能はあるが、非表示機能はない。
「スキルはどうなってる?」
言われて俺は目を泳がせて、スキル一覧を見付ける。
「あー、
「ふむ。やっぱりカンストしたみたいだねぇ」
フィルニーアは満足そうに頷いた。
この六/六はスキルの現在レベルと上限レベルを表示している。俺は身体能力強化魔法(フィジカリング)がレベル六まで強化出来て、今、その強化が終わったわけだ。
ちなみにこのスキルレベルの上限も《レアリティ》によって決まる。
全くもって理不尽だ。俺は六だぞ六。
「じゃあ、次の魔法を習得しようかね」
「お、マジか」
俺は嬉しくなって思わずにやけた。
フィルニーアは魔法使いだけあってかなりの数の魔法を習得している。その中から実用的なものを俺は一つずつ教えてもらっている。これには理由があって、一つずつを極めていく方が習得までの時間と経験値が少なく済むかららしい。
「ただし、魔法に対しての理解をしていれば、さね。これから魔法テストだよ! 落第点取ったら魔法習得はなしだ!」
「よっしゃこいやぁ!」
杖を突き付けてくるフィルニーアにのって、俺も立ち上がって力こぶを見せ付ける。
まだたった一〇歳だが、地球にいた頃よりも筋肉はある。
この魔法テストは毎回の恒例行事だ。魔法の理解がない奴に魔法は扱えない。だから教えない。というのはフィルニーアの持論だ。
「魔法における属性を全て述べよ!」
ばばん! とどっかからSEが鳴った気がする。直後、フィルニーアが問題を口にする。
俺は余裕たっぷりでふん、と鼻を鳴らす。
「地水火風の基本四属性、そして三大属性である雷、聖、闇。そして裏属性の光」
「正解さね。それじゃあその属性の相関図を書き出しな」
フィルニーアがチョークをトスしてくる。
俺はキャッチすると、黙って黒板に向かった。
基本四属性である地水火風をひし形に描き、それぞれの頂点に文字を書く。その中心に雷を置いて、図形の左と右の斜め上に聖と闇を描いて線を結び、逆三角形を象る。さらに図形の下に光を記入して、聖と闇とを線で結んでまた逆三角形を象ってひし形を囲む。
「そうさね。それじゃあこれは何を意味しているか、述べな」
「適性の相関図。例えば、土に適性があれば、風が苦手適性になる。これはスキルの習得レベルに関わってくる。それで、雷は別格。これは適性を持っていれば他の基本四属性を苦手としない。一定レベルまで習得が出来る」
俺は淡々と口にしていく。
「また、聖と闇は、四大属性の適性に影響なく、どちらかに適性がある。ただし互いに反目しあっているため、聖に適性があれば闇は習得できない。ただし、雷に適性があった場合、聖と闇、どちらも習得できない」
実に複雑な構成図だが、俺は完全に理解している。
「そして最後に光。聖と闇、両方に親和性がある――けど、補助特化と言ってもいい属性だな。攻撃力の持つ類はほとんどない。だからか、どの属性に適性があっても、光が苦手適性になることはない」
フィルニーアは満足そうに頷いてから、ニヤりと笑った。
「その通り。そしてグラナダ。お前さんはその光魔法に適性を持った
「ついさっきまで忘れてたのに思い出させんなよ」
俺は思わずため息をついた。
そう。俺の適性は四大属性でも雷でもなく、光だ。
これは非常に稀らしい。だが、だからって羨ましがられることはない。
理由は単純だ。
どんな属性であったとしても、光が苦手になることはないということは、一定のレベルで習得できる。更に光はさっきも言ったが補助魔法ばかりで、適性があったとしても意味があまりないのだ。加えてもう一つ。光に適性を持つと、四大属性の全てが苦手になるという致命的な欠陥があった。
事実として、俺は四大属性を未だに基本レベルしか習得出来ていない。
「いや忘れるはずないだろ。どんな現実逃避するつもりさね、あんたは」
フィルニーアは鋭いツッコミを入れてくる。呆れた様子のため息もセットだ。
「まったく。あんたの前に立ってる人間を誰だと思ってんだい」
右手に炎、左手に氷。そして頭上に風を起こし、足元から土を隆起させてから、身体の中央に雷までも発生させてフィルニーアは笑んだ。
このバケモノめ。
思いながら、俺は目を細める。フィルニーアは昔、戦火に塗れたこの国で大活躍した超高名な大魔導師らしい。俺からすれば奇特な変人にしか見えないけど。
ただ、その魔法は確かに凄まじくて、確か一〇〇体近いゴブリンをたった一発の魔法で屠ったりもした。超のつく実力者には違いない。
「これから、あんただからこそ使える魔法を教えてやるさね」
「俺だからこそ、使える魔法?」
おうむ返しに訊くと、フィルニーアは頷いた。
「そう。日の目を見ることなんてないって言われている光に適性を持つそこそこの《レアリティ》を持ち、その情けない光魔法のスキルレベルを無駄な領域に至るまでカンストし、更に魔法知識をアホのように蓄え、肉体を限界まで鍛え上げた存在――グラナダ。あんただからこその魔法さね」
「何かさらっとディスられてねぇか今」
「気のせいってやつさね」
フィルニーアは意地の悪い笑みを浮かべながら否定した。
「光魔法だからって、
「やっぱディスってたんじゃねぇか!」
フィルニーアの言葉に、俺は思いっきりツッコミを叩き入れた。