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第二話

 微睡む。
 意識が少しずつ戻っていくのが分かる。

 あれ、どうして、俺は寝てたんだろう。

 そんなことを何となく思いながら、俺はゆっくりした落下感覚に包まれていた。


「おめでとうっ!! 君は今から転生するよ!!」

 って。

「またこの声かよっ!?」

 俺は瞬間的に覚醒した。だが、目の前に広がっているのは空で、下にはただ広い森が広がっているばかり。って、俺、落ちようとしてる!?
 慌てようにも、俺の身体はビクともしない。いや、正確に言えばのろのろと動くが、おかしい。それに全体的に小さくなったというか――

 まるで――、

「赤ん坊になってるうううう!?」
「あーもう叫ばないの!」

 絶叫すると、どこかからともなく声がやってきた。

「テメェか! テメェの仕業かこのクソカスアホボケダメダメ女神レイヤー!」
「どんだけ罵倒してくんのよ! 後ダメでもないしレイヤーでもない!」
「言い返すとこそこかよ!」
「そこしかないわよ」

 クソカスアホボケは認めるのか。

「それよりも、時間があまりないから説明するね。今から君は転生します。そこの森に落ちます」
「こんな赤ん坊の状態で!?」
「That`s right!」
「その通りとかすっげぇ綺麗な発音で言うんじゃねぇよ!!」
「安心しなさい。軟着陸するから」

 なるほど。それなら安心。って、んなわけあるかよ!!
 もし手足が自由ならツッコミを入れてるところだ。

「いやいや無事でもこんな森に投げ出されたらダメでしょ。っていうか俺、全裸!?」
「だーいじょぶじょぶ。三〇分くらいは私の加護があるから平気。たぶん」
「たぶん!? いや大丈夫でも三〇分かよ!」
「その間は例え隕石が落ちても平気だよ?」
「そう! いう! 問題! じゃ! ないっ!!」

 俺は力いっぱい宣言する。
 だが、声しか届いてこない以上、受け入れられるとは思えなかった。 

「まぁ、というわけだから。あ、そうそう。業務連絡ね。一応、アンタはここで転生していくわけだから、この世界を救うために生きるのよ? まぁあんま期待してないんだけど」
「なんだよそれ!?」
「理由は後で分かるわよ。それじゃあ、達者でね」
「おい待てやハゲチビクソアホボケナスチビっ!!」

 力一杯罵るが、返事はない。もう消え去ったらしい。
 付け加えて、背中に柔らかい感触がやってきた。着地したか。って、これからどうすんだよ。

 いきなり赤ん坊で、めっちゃ広い森の中からスタートって、どんだけハードモードなんだよっ!!

 どんだけ叫んでも、声にさえならない。
 俺はただひたすら、誰かが来るのを待つしかなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 いやね? 待ちましたよ? 確かに待ちましたよ。誰かが来るのを。
 でもね? それはなんというか、暗黙の了解というかね? 人間だと思うじゃないですか。

「ガルルルル」
「ゲギャッゲギャッ」
「きゅおーん、きゅおーん」

 なんだか真っ赤に燃える色の獣毛のワンチャン(虎くらい大きい)と、ゴブリン? らしき亜人と、コボルト? らしき獣人が、美味しそうな顔で俺を見下ろしています。

 いや、待てや、ちょっと待てや。

 体感時間だから分かんないけど、もうすぐ女神の展開した結界? みたいなのが消えるんじゃないですかねぇ? ヤバくないですかねぇ?
 なんか、目の前で光っていた膜がどんどん薄くなっていくんですけど。

 いやこれホント、やばくね? やばいよね? え、詰んだの? もうここで詰んだの?
 転生して三〇分でお陀仏とか、わりと歴史に残る快挙的な恥だよね?

 くそ、死んで女神のとこ行ったらぜってぇ一発ぶん殴る!

 そう固く誓った瞬間だった。
 一陣の風が舞って、次にはもう俺を獲物としか見ていなかった三匹? は消えていた。
 否、正確に言えば視界から消えた。でも、なんだか嗅いだことあるようなないような、すっげぇ生臭いものを感じる。もしかして血の臭いとかいうやつか。いやまさか、そんなはずは。

 何が起こったのか分からないでいると、すぐ頭上で足音がした。

「おやおや。なんだか変な波動を感じたからやってきたら、やっぱりかい」

 そして姿を見せたのは、おばあちゃんだった。
 長い白髪に、真っ黒なとんがり帽子に真っ黒なローブそして、箒に乗って浮いている。
 おばあちゃんは指先をくいっと動かす。すると、俺は見えない何かに包まれて浮き上がった。

 って、うお、マジか。

 ざわざわと全身に寒気が走る。こんなの初めてだからだ。
 まさかアレか、これ、魔法とかいうやつか。うわー。

 俺が密かに感動していると、俺はおばあちゃんに抱き上げられていた。

「こんな格好でまぁ、可愛そうに。転生者だろう、アンタ。どれ」

 そう言って、おばあちゃんは俺に微笑んだ。
 あ、なんだか温かい。
 しかし、微笑んでいたおばあちゃんは、少しだけ不憫そうな表情を浮かべた。

「そうか……あんたの《レアリティ》はR(レア)かい……これはまた」

 ん? レアリティ? レア?
 分からないでいると、おばあちゃんはしばらく悩む素振りを見せてから、ニヤりと嗤った。なんだかすっげぇイヤな予感がした。

「魔族に蝕まれるこの世界を助けるために来たってねぇのに、その《レアリティ》じゃあ犬死にするだけさね。この世界で生きていくだけなら十分だけど、転生者の運命ってのはままならないからねぇ」

 ど、どういうことだ?

「おいで。アンタはワシがちゃんと育てて鍛えてやるよ。最低限、いっぱしの魔法使いとして認められる程度にはしてやるさね。例え残念レアリティだとしても」

 そう言って、おばあちゃんは俺を抱き上げながらゆっくりと移動を始めた。
 まだ状況が上手く掴めないが、とりあえず俺は助かったらしい。それで魔法使いか何かになるってことか。心配なのは残念とか言ってるあたりだけど。

 な、なんとかなるのか?

 そう思っていると、ちらちらと雪が降ってきていた。
 異世界でも雪が降るんだなーと思っていたら、いつの間にか眠気がやってきていて、俺は目を閉じてしまった。


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