イケメンパラダイス? ふざけんなよ!
なんということでしょう。
頭に思い浮かぶのは夜の歌舞伎町。何回か行ったことはあるけど、私には合わなかった。
「女神様!! 我ら王国騎士団でございます!!」
「是非とも我らに祝福を!!」
「女神様!! ああ!! そのおみ足に口付けさせてくだしあ!!」
なんだコイツら。
恐ろしいくらいの整った顔に、スラリとした細身の体。
きめ細やかで白い「陶磁器のような」って表現がぴったりハマる肌なんて初めて見たわ。てゆか、最後のやつ変態がつくほうの紳士じゃないの? 大丈夫なのこの騎士団。
「ちょっと爺さんず、この子たちは?」
「王国屈指の騎士団でございます。女神様」
「んなわけあるかーーー!!」
突然ブチ切れる私に爺さんずは慣れたように「ほっほっ」と微笑んでいるけど、騎士団のもやしっ子たちは私の神気に当てられて失神寸前だ。
「ちょっとそこの子、騎士団に必要なのは何!?」
「はっ! まず第一に美しさでございます!」
「アホかぁーーー!!」
再び爆発する神気に、返事をしたもやしっ子騎士の一人が昏倒する。慌てる騎士たちに構わず、私は声を張り上げる。
「男たるもの!! 騎士たるもの!! まず必要なのは美しさなんぞ甘っちょろいもんなわけあるか!!」
「め、女神様申し訳ございません……どうか、どうかお気を鎮めてくださいませ……」
「こんな女のひと声で倒れるなぞ!! 軟弱!! 惰弱!! 騎士でも男ですらない!!」
私は期待していた。だからこそこの騎士団にガッカリした。なぜだ。普通は違うでしょ。騎士とか兵士とか、そういうのじゃないでしょ。
怒りに震える私に、神官の爺さんがそっと近いて聞いてきた。
「それでは女神様、騎士団に足りないものとはなんでしょう?」
「決まっている!! 筋肉だ!!」
「はぁ」
「何を腑抜けた声を出しているんだ爺さん!! 私は!! 筋肉が必要だと言っている!!」
こうして私は『王国騎士団員一斉バルクアップ計画』という一大プロジェクトに着手することとなったのだ。
街に出たいという私に、王様を始め多くの人が反対したけど「私に命令するな」という一言で許可が下りた。私の神気に逆らえないなら反対しなきゃいいのに。
「それは、女神様が美しすぎるからですぞ。反対するのは心配だからであります」
「だからその美しすぎるとかって、おかしいって。この国の人達……」
そうなのだ。
美醜がどうとか、そういう問題ではないらしい。私がイケメンだと思えば皆がイケメンと思う。価値観はそう違わないはずなのに、なぜか皆私のことを美しいって言って聞かないんだよね。
「おかしいと言われましても……ああ、もしや女神様は礼拝堂などに行ったことがないのでは?」
「礼拝堂? 私が行く必要あるの?」
「いえ、女神様は祈られる側ですから必要はないのですが、そこには伝承の女神像や絵画などがありますゆえ」
「伝承の女神……確か王様がそんなこと言ってたね。用が終わったら寄りたいかも」
「かしこまりました。では街へはこの馬車にお乗り下され。どこに向かわれるのですかな?」
「もちろん、ハンターギルドよ」
てっきり観光だと思い込んでいたため慌てふためく神官爺さんずを引き連れ、王都にあるハンターギルドに向かう私。そんなに慌てるって、ハンターギルドは危険なのかしら?
「粗野な者が多いのでございます。女神様に何かあったら……」
「その時は爺さんたちが守ってよ」
「無論守りますが……」
「粗野とか慣れてるから、別に平気だけどさ」
こう見えて、私が勤めていたところは建築関係の会社で、それも現場仕事の多いオッサンたちがたむろする事務所にいた。
言葉は荒くても、気の良いオッサンたちばかりだったから長く勤めていたけど、若い頃は怖くてドキドキしていたっけ……。まぁ、今は若くもないし、粗野な男たちはむしろゲホゲホ何でもないです。気にしないでください。
そんなことを考えてたら、あっという間にハンターギルドに着いた。
突然現れた仕立ての良い馬車に、出て来たのは年老いた神官と美しい?女神のような女が一人。
……自分で女神とか言ってて、恥ずかしいこと極まりないけど。
私たちがハンターギルドの入り口まで歩いて行くと、建物の前にいた瘦せぎすの男が恐る恐る声をかけてきた。
「あ、あんたら、一体何の用だ?」
「何の用かって、ここは魔獣退治を専門とするハンターギルドでしょ? 魔獣に関する用に決まっているじゃない」
強気な私の言葉に、聞いてきた男はカチンときたようだ。それでも女神のような容姿で(と言っていいのか分からないけっど、もう開き直りつつ)ある私にじゃなく、よりによって神官爺さんに来やがった。
「おうジジイ、そこの嬢ちゃん連れてとっとと消えな!」
「ちょっと! 爺さ……神官長に無礼じゃない!」
声を荒げたのは、多少芝居がかり過ぎていたかもしれない。奥から出てきた長身の中年男は苦笑したまま、瘦せぎすの男の肩にポンと手を置く。
「入れてやれ」
「ギ、ギルドマスター……ですが……」
「この方に神気を出させるな。今は大丈夫でもお前が怒らせたら、収拾つかなくなる」
「へ?」
瘦せぎすの男が呆気にとられたようにこっちを見た気がするけど、今の私はそれどころじゃない。
豊かな赤い髪は肩ぐらいまで伸ばされ、無造作ながらも不潔には見えない程度に整えられている。無精髭で隠されているが良く見れば整った顔、青い瞳は少し緑がかった不思議な色をしていた。
そして何と言っても、素晴らしいのはその体だ。
細かな傷が付いているものの、それは彼の鍛え抜かれた筋肉を飾る装飾品のようなものだ。白っぽいシャツの腕をまくり、胸元は大きくはだけて大胸筋が溢れんばかりだ。履いている布のスボンも太ももの筋肉にぴったりしていて、動くたびに筋肉の躍動が分かる。彼のその所作一つ一つが私だけじゃなく周りの目を惹き、放つオーラは歴戦の強者にしか出せないものだ。
なんと魅力溢れる、色っぽい男なんだろう。
そう思った瞬間、私の中から何かが大量に出た。神官爺さんが慌てているのが分かるけど、止められない。止まらない。ノンストップ状態だ。
「なんだぁ?」
「こ、これは、神気……!?」
顔を真っ赤にした私は無意識に神気を出していたみたいだけど、それは威圧させるものではなかった。
「嘘だろ……?」
赤毛の美丈夫が呆けたように私を見て、「女神……」と一言呟いたところまではおぼえている。
次の瞬間、私の意識は暗転した。