藍梨との初めての休日①
数日後 日中 沙楽学園1年5組
「色折くーん、ここの問題が分かんないから教えてよー」
「色折は昨日何していたのー?」
「色折くんって本当にウケる! もう最高!」
入学してから一週間以上が経つ。 いつも教室で騒いで授業を妨害したりしているせいか、クラスのみんなは目立つ結人にちょっかいを出すようになった。
授業は常に妨害しているわけでなく、たまに寝たりもするのだが。 そこから藍梨と真宮以外のクラスメイトとよく話すようになり、この関係が今でも保たれている。
クラスに溶け込めるようになったため、この結果はいいだろう。 それとクラスのほとんどは、結人と藍梨が付き合っているということを既に知っていた。
結人と藍梨が最近仲よくしていたからか、クラスの子に『二人は付き合っているのか?』と聞かれたため、素直に『付き合っている』と答えた。
そのせいで、クラスでは結人たちが付き合っていることが噂になり広がってしまったのだ。 だが他のクラスまでは流れていないため、そこは少し安心する。
これが公認カップルというものだろうか。 公に付き合っていることを発表しておけば、藍梨を狙っていた者は大抵諦めるだろう。 そう考えると、クラスに広まってよかったと思っている。
「ユイちゃーん、宿題するのを手伝ってよー」
「だからその名で呼ぶなって! つか、宿題くらい自分でやれよ。 自分でやんなきゃ、将来の自分のためにはなんないぜ?」
結人はわざと格好を付けるように、ドヤ顔でそう口にした。
「授業中に寝ているユイに言われたくないわー」
「それを言うなら授業中に寝ていて何も分かっていない俺に、宿題をやらせる方がおかしいだろうよ」
笑いながらそう返してくる女子につられ、結人も笑って突込みを入れる。 今藍梨は、いつも一緒に行動を共にしている友達と楽しそうに話をしていた。
真宮も社交的だからかすぐに友達が作れたようで、今自分の席に座って周りの生徒と一緒に盛り上がっている。 そんな居心地のいいこの空間が、結人は好きだった。
そんな学校生活はあっという間で、いつの間にか放課後になってしまう。
「藍梨ー、真宮ー、一緒に帰ろうぜ」
帰りのホームルームを終えた結人は、二人に向かって声をかけた。 今日からは、結黄賊のみんなと一緒に帰ることになっている。
だがメンバーの人数が多いため、廊下ではなく昇降口で集合することになっていた。 今日は高校生になって初めて、結黄賊のみんなが集まる日。
もちろんこれから行く先は、結人たちの基地である。 この先も、この生活がずっと続くことだろう。
「お、藍梨さーん!」
昇降口へ向かっていると、椎野が結人たちに気付き藍梨に向かって叫んでくる。 みんなは既に集合しているようだ。
「今日はこの後、予定ある奴はいるかー?」
仲間のことを見渡しながら尋ねるが、誰も言葉を返す者はいないため大丈夫だと察した。 そして結人はみんなを連れて、基地へと足を向かわせる。
学校から正彩公園までは、歩いて約20分程度。 沙楽学園の生徒たちが帰る方向とはほぼ真逆なため、その周囲にはほとんど人がない。
公園は誰もいなく空しいところだが、結人たちが来ることによってその光景は一変する。
「なぁ。 今日は折角みんなが集まったんだし、倉庫の中へ入ろうぜ! そして俺たちのことを、藍梨さんに話すんだ」
ふと思い付いたのか、未来が楽しそうに結人へ向かってそう提案をした。
―――そうか。
―――藍梨に結黄賊のことを教える、いいタイミングかもしれないな。
そう思い、すんなり彼の意見に了承する。 倉庫の鍵は、リーダーである結人と副リーダーである真宮が持っていた。 入り口は大きな扉がある表と、裏にも小さな裏口がある。
そして高校生になって初めて、結黄賊の基地――――大きな倉庫に、皆足を踏み入れた。