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藍梨との初めての休日②



「わぁ、ひっろーい!」

倉庫を開けて早々、藍梨は思ったことを素直に口にする。 一人だとこの倉庫は“広いな”と感じていたが、結黄賊のみんなが入ってもやはり“広い”と感じた。
結人は藍梨をソファーまで誘導しそこへ座らせ、自分も彼女の隣に座る。 そしてこれから話をしていこうとするが、結人はある違和感に気付き彼らに向かって口を開いた。
「・・・あれ、お前らは自由でいいんだよ?」
みんなは何故か、リーダーである結人の方を向いて大人しくその場に座っている。 そんな彼らに気を遣って声をかけたが、逆に真宮が不思議そうにこう尋ねてきた。
「いや、でも今から結黄賊の説明をするんでしょ?」
「あぁ、説明は俺から藍梨にするからいいよ。 だからお前らは、適当に遊んでおけ」
彼の質問に、結人はみんなに向かって笑いかけながら言葉を返す。 その発言を聞いた途端御子紫は急に笑顔になり、その場に立ち上がっていきなり大声を出してきた。
「よし! そんじゃ、早速サッカーでもやろうぜー!」
自分の周りに座っている仲間に向かってそう叫ぶと、隣にいた椎野もその場に立つ。
「俺もやるー!」
彼らにつられて、真宮も立ち上がりこの場から離れていった。 そんな中、気乗りしなさそうな雰囲気を醸し出しながら、夜月は彼らに向かって言葉を投げかける。
「え、こん中ですんのかよ?」
気だるそうなその問いに、御子紫はサッカーで使うボールとなるものを取りに行きながら返事をした。
「あったりまえだろー! こんなに広いところを折角譲ってもらったんだから、使わなきゃ損損!」
そんな陽気でいる彼を見て、夜月は何も言い返さず軽く溜め息だけをつく。
「優たちも行こう?」
北野が優とコウに向かって声をかけると、その誘いに二人は嫌な顔をせず、頷いて御子紫たちのもとへと駆けていった。

「人数が足りねー!」
その後少し静かになったかと思いきや、遠くから御子紫の声が再び届いてくる。 
だがその発言を聞いても今いる場所から動かない結人たちを見て、御子紫が半強制的に指名していった。
「夜月ー」
「俺はパス」
自分の名を呼ばれ、すぐさま返事をする夜月。 そんな彼に嫌な顔を一瞬だけ見せ、続けて次の人を指名した。
「んじゃ悠斗ー」
今度はいきなり誘われ、少し戸惑い言葉を詰まらせる悠斗。 そんな彼の背中を優しく押すように、未来は隣にいる悠斗に向かって小さな声で囁いた。
「いいよ。 俺はここにいるから、行ってこいよ」
そう言うと悠斗はどこか安心したのか、頷いて御子紫たちの方へと走っていく。
「あと一人足りねー」

「コウが強いから、コウのチームを一人減らせばよくね?」

そのようなことを話しながら、適当にチーム決めが始まり御子柴たちはサッカーを開始した。 そんな彼らを横目に、早速未来が藍梨に向かって本題を切り出す。
「藍梨さんは、俺たちの何が知りたいの?」
「結黄賊って何?」
その問いに、彼女は迷わずすぐさま答えた。 
―――あぁ・・・そこからか。 
だがあまりにもざっくりとした質問に結人が返答に困っていると、未来が先に口を開いて説明を始めてくれる。
「えっと、結黄賊っていうのは、カラーセクトの一部で・・・?」
―――・・・何だよ、その雑な説明。 
―――つか、最後疑問系で終わるのかよ。
未来はそう答えながらも難しそうな表情を浮かべているが、藍梨はもっと難しそうな表情を浮かべていた。 そんな彼らを見て、結人も彼女の質問の答えを考え始める。
―――そうだな・・・結黄賊っていうのは・・・。

「結黄賊っていうのは、俺たちが中学ん時に勝手に作ったチーム名。 セクトっていうのは、一つの組織内で主張を同じくする者の分派のこと」

まともな答えを出せない結人たちを見かねたのか、夜月が淡々とした口調で説明をし出した。
―――なるほど、分かりやすいな。 

「カラーセクトのチームはたくさんいて、結黄賊はその中の1チーム。 色は自由に決めてよくて、俺たちはユイのイメージカラーの黄色をチームカラーにした。 
 結黄賊のチーム名も、ユイと黄色を混ぜて作り上げた名だ」

「結人たちは、その、組織・・・分派・・・?」
あまり聞き慣れない単語を聞いて、藍梨は不安そうな顔をして結人たちにそう尋ねてきた。 その問いに対しても、夜月が優しく答えてくれる。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。 俺たちはカラーセクトって言ってはいるけど、特別悪いことをするチームじゃない。 
 ただ俺たちが格好付けて、カラーセクトって名乗っているだけ。 派閥争いなんてしないし、本物のカラーセクトとは程遠い存在さ」

そして夜月は少しの間を空け、真剣な顔をして更にもう一言を付け加えた。

「・・・って、俺は信じたい」

―――・・・うん、俺もそう信じたい。

夜月の最後の一言に、結人も頷く。 確かに自分たちでは悪い行為をしていないと思ってはいるが、傍から見たらしているように見えるかもしれない。
だが、そのようなことは考えたくなかった。 結人たちはこれでも、悪い行為をしないよう努力しているのだから。 
そして気まずい雰囲気を作らないためになのか、藍梨は頑張って次の質問を考え口にしてきた。
「結黄賊は、いつもどんなことをしているの? 喧嘩?」
「まさか」
その問いに、結人はやっと口を開くことができ説明をする。
「俺たち結黄賊がすることは、ただみんなで集まって適当に喋ってそのまま解散。 それだけ。 適当なチームさ。 喧嘩はするとしても、基本人助けをする時にしかしないよ」
「じゃあ、結黄賊は本当にいいチームなんだね。 20人・・・だっけ? そんなにいるチームをまとめるなんて、結人は凄いんだね」
藍梨は笑顔でそう言ってきた。 だが正直なところ、結人はみんなをまとめるようなことなんてしていない。 ただ、みんなが素直に結人に付いてきてくれるだけだった。
だが未来は藍梨に対して、こう返事をする。
「そうなんだよ! ユイはめっちゃいいリーダーなんだぜ! 
 ユイは人のことをちゃんと見ているし、人の気持ちをちゃんと理解してくれるし、俺たちのことを第一に考えてくれるし!」
「まぁ、それは言えているな」
その発言に、夜月も少し微笑みながらそう言葉を続ける。 
だがそんな素直なことを言ってくれる未来たちに恥ずかしい思いをした結人は、彼らに向かって大袈裟なリアクションをし照れたのを隠そうとした。 

「何だよ未来ー! 当たり前なことを言うなよ、照れるじゃないかー!」
「あ、そういうのは寒いから止めて」
「なッ、寒いとか言うなよ!」

先程までテンションの上がっていた未来が急に真顔になって冷たく突っ込んできたのに対し、結人はその発言に重ねるようすぐさま突っ込みを返していく。 
その時、遠くから仲間の声が聞こえてきた。

「ユイー! 明日、みんなでどこかへ遊びに行かね? 藍梨さんも一緒にさ!」

椎野がサッカーをしながら、楽しそうにそう叫んできた。


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