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第八話

次の授業は体育である。神様牛にとっては、からだに最も優しくないものとなっているのは言うまでもない。
「今日の体育は雨が降ってることもあるし、室内で全身の筋肉イジメに最適な組体操だよ。筋肉は使わないとすぐに落ちちゃうから、牛として体力維持にはぜったいに必要なぎゃくた、じゃなかった訓練だからね。」

「今、虐待とか言おうとしたよねぇ。」
 福禄寿の言葉を完全スルーして、ピンクのジャージの襟元を引っ張って首を絞めるようなポーズを決め込んでいる教師桃羅。やる気オーラが炎上している。

「組体操、楽しみだね。」「神様牛たち、すごく頑張ってるからね。」「汗と涙の結晶だからよ。」「今日もケガ人記録更新するのかな?」「それがいちばんの見どころだね。」「一番前の席、1万円だよ。」

 当然ながら、人間生徒たちはただの見学である。体育は見学することで、出席したことになるというお気楽な時間帯であり、ジュースとお菓子が用意されている。見学席の最前列が取り合いになって、ダフ屋まで出現している。
 体育館ではすでにピラミッドができている。見事な正三角形を形成しているが、地震でも発生しているのか、ブルブルと左右に揺れている。

 ピラミッドの構成要素である神様牛は、灰色のジャージ姿である。なぜか、顔に鬼の面を付けている。それも縁日で売られている安っぽいモノである。両手両足には砲丸投げに使う真鍮球を結び、ご丁寧に三角の針も付いている。球が揺れれば自動的に自分および他人の皮膚を破る構造になっている。

「あのお面、ジャマなんだけど。」「でも醜い顔なんて見たくないじゃない。」「苦しそうにしているところを見るがいいのよ。」「あの重り、ちょっと残酷モード入り過ぎじゃない?」「汗流すより、血の方がきれいだよ。」「神様牛のための便利グッズだよ。」「特許申請中!」「ドSには効果的な販売ツールだね。」「ホント、体育の時間は心が癒されるわ。」

 すでに見学側のテンションは上がっている。全員が制服姿であり、運動回避前提の見学する気満々である。
 ピラミッドの頂点と2段目には三人寒女が並んでいる。一番上に最重量の大黒天が鎮座するという、下層の神様牛にはなかなかの親切設計である。

 大黒天は一番上で、仁王立ちしている。当然ながら下に対するプレッシャーは増加しているし、さらにバーベルを持ち上げているという強力なオプション付き。さすがにパワフルな大黒天でもそのからだを静止させることは容易ではなく、小刻みに震えている。それがピラミッド全体に伝達され、ぶら下げたこんにゃくのような奇妙な動きとなっている。

 脂汗をラーメン屋の水切りのように流す大黒天は、苦悶の表情で開いたままの口から空気を発した。
「い、いくらでもいいから神頼みしてほしいどす。このヤマを切り抜けるには、お賽銭が必要どす。」

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