第九話
大黒天の言葉はどうにか教師桃羅に辿り着いたのか、教師桃羅はピラミッドに近づいた。
「ついに出たね。心の底からの願い。それは本来、人間が心身極まった時に、神に対して行うものだよ。でもそんな人間の思いをほとんど袖にしてきたのが神様。これまで、どれだけ神頼みしてきたと思う?でも戦争なくならない、日照りのときに雨は降らせない、台風は来てしまう、少子高齢化は止まらない、生徒の成績は上がらない、あたしの給料も上がらない、オヨメ姉ちゃんはあたしを愛してるけど、愛撫してくれないし。」
「それはちげーだろ!いや、違いますことよ。」
突然振られたがしっかりツッコミ入れたオヨメ姉。いちばん後ろに一人で座っている。
「人間がいくら神頼みしても一時的な心の避難場所になっていただけ。なのに、神頼みを叶えたりしない。それでは神の存在意義なんてないよね。その結果が現代の神の立場を作ったんだから。お賽銭ほしかったら、ちゃんと神頼みを聞けるように、耳掃除をしておくんだね。ほらほら、お金ならいくらでもあるんだよ。」
教師桃羅は一万円札十枚を扇子にして、顔に風を当てている。
「あっ。そ、それほしいどす。いや、お札じゃなくても、五百円でも。いやいや、十円でも、一円でも!」
「ふふん。値切るの得意なんだねえ。バナナの叩き売りならお似合いだよ。その意気に免じて、これ一枚お賽銭として奉納しようかな。」
教師桃羅は一万円札にキスして、手を伸ばす。
「あ、ありがたいどす。この手はぜったいにそのお金に届かせるどす!」
大黒天はバーベルを片手で持ち、全力で右手を下に傾ける。
「ほらほら、もう少しだよ。もっと手をタコ足のようにしないとね。」
まだ教師桃羅と大黒天の距離は10センチある。
「あとちょっと。もっと先へ行くんどす。みんな頑張るどす。」
大黒天が右下に体重をかけているせいで、ピラミッドも同じ方向に傾いて、床をギシギシと鳴かせている。
「ほれほれほれ、届きそうだよ。腕が逆に曲がるまで頑張るんだよ。」
「く、く、苦しい。だけど、この右手に未来がかかっているんどす。」
大黒天は身をさらに乗り出して、背筋力の限界まで酷使して、教師桃羅の差し出すお札に到達した!
「残念ながら残念。神様にあげてもどぶに捨てて、ゴミになって環境破壊するだけだからね。これでケーキ大盛り注文だよ。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「わ~い!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
女子生徒たちはお祭り騒ぎとなった。万歳する者が続出し、中には制服を脱いで下着姿になっている女子も出現した。