第十九話
「だめよ、オヨメちゃん!それはモモだけの特権。夫婦にしか許されない、甘い夜の新婚さんいらっしゃいだよ、できちゃうよ!」
「桃羅、用語が少々乱れてるぞ。だが、オレだって、これはかなりマズいというカテゴリーに属するという事業仕分けができるぞ。もごもご。」
大悟は口の中でサイコロステーキを転がしながら、喋っている。
「兄妹揃って非常識だわ。口に食べ物を入れて喋るなんてマナー違反、行政処分モノだわ。これは儀式なんだから、さっさとやってしまいなさいよ。食事が終わらないでしょ。」
「そ、そこまで言うなら、覚悟を決めてやる。どっちにしろ、これはノーカンだ。自動的に追試が受験可能だからな。」
大悟はテーブルの正面に位置する白い顔を目指して微動開始した。
1センチずつ、いや1ミリずつ稼働するという実に精密な動きで、大悟は楡浬との間合いを詰めていく。10センチ、9センチ。距離は少しずつ縮まり、ついに1センチを切った。
「ここからミリ単位刻みだな。この初オペは慎重に行かねばならないんだ。」
よくわからない目的意識で自分を鼓舞した大悟。
9ミリ、8ミリ、7ミリ、6ミリ、5ミリ。オペは着実に進行していく。
「桃羅。今何時だ?」
「7時だよ。」
「6ミリ、5ミリ。ハアハア。小休止だ。」
2ミリバックして、2ミリ進んだ大悟は、10秒休憩し、進撃再開。距離は目分量らしく、多少の誤差が発生している。
「4ミリ、3ミリ、2ミリ、1ミリ、ゴール!」
「神様に何不埒なことするのよ!バチッ!」
楡浬が大悟を全力で叩いて、大悟は椅子ごと倒れた。
「痛え!何しやがる!」
「やっぱり、馬嫁の唾液まみれの肉を口にするような不潔なことはできないからいいわ。」
「神聖なる儀式じゃなかったのか?」
「下等動物のエサは、高貴高潔コウケツで衛生的なアタシの口には合わないわ。」
「コウケツというフレーズには雑菌がかなり混じっているような気がするけど。」
「余計なツッコミは病めなさいよ。」
「病んでるアピールはやめろ!」