第十八話
楡浬の命令で大悟は、ダイニングに神棚を設けていた。ヒノキ作りのミニチュア社が完成していた。お賽銭を口にした楡浬が、神痛力で出したのである。
「食事の前に、恭しく神に感謝するのよ。お賽銭もちゃんと用意しなさいよ、さっき消費したんだから。それに厳粛な儀式では形を整えることが必要なんだからね。」
神棚の前に仁王立ちしている楡浬に、仕方なく手を合わせる兄妹。桃羅は完全にソッポを向いたままであった。
『パンパン!』
その音で社は大地震にでも遭ったように見事に崩壊した。
「おかしいわねえ。お賽銭は十分だったのに。きっと、この家の空気が腐ってて、それが社の柱に影響したんだわ。うんうん。」
「臭いモノであることに完全に蓋をしたぞ。」
楡浬は大悟の呟きをガン無視。再びお賽銭を食べて、今度は念入りに呪文を唱えた。
「これでいいわ。今度は完璧な社ができたはずだわ。」
『ドカーン』
爆発音とともに神棚ごと社は粉々に破壊されて、チリが大悟の頭部を白く積もった。
「これは、かなりやばい神様じゃねえのか。」
大悟の予感は、非常に正しい未来地図を描いていくこととなる。
テーブルでは、大悟と桃羅が横に並び、楡浬が大悟の向かい側に座っていた。
食事もすべてメイド服の大悟が楡浬に食べさせた。その都度、桃羅が血の気を帯びるも、大悟のメイド服を見ると、血圧が下がるというシーソーゲームを繰り返して、ついに桃羅が正気を取り戻すことがなかったのが幸いし、食事は無事に終わった。
「あまりおいしくはなかったけど、蛮婦にしては、食べられるものを作ってくれたわね。」
「褒められた気は全然しないけど、お粗末様でした。」
味のある手料理とは異なり、楡浬と桃羅のそっけない会話で終わりそうだった時。
「食事の最後には儀式があるのを知ってるわよね。さあ、そこにあるサイコロステーキの一個を唇蓋客鳴(しんがいかくめい)しなさい。」
「しんがいかくめい?なんだそりゃ。」
大悟が呈した疑問の口に入ったラストサイコロステーキ。それを突っ込んだ楡浬は小さな口を軽く開いて目を閉じている。
「何ぼさっとしてるのよ。そういうところは駄馬そのものね。神様の食事作法も知らないなんて、神棚のお供え物にもならないわ。唇蓋客鳴っていうのは、昔は口移しの儀と呼ばれた神聖なる儀式のことよ。神であるアタシが待ってるんだから、さっさとやりなさいよ。」
再び大悟家の気流が静止し、大悟の体温と桃羅の脳内物質が沸騰した。