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第二十三話 初めての恐怖

「お前は……ッ!?」

 黒の仮面に黒のフード。その逞しい体、全体を黒の布で覆った不気味な男に、俺は『このままではやられる』と直感して、反射的に先制攻撃を打つべく、手を奴に向けようとする。
 だが、俺が手を挙げ終わるよりも早く、やつは複数の刃を俺に向けて放った。

「くそっ!」

 身体強化されている俺の超人的な体を持ってしても、あれは到底避けきれない攻撃だと、感覚で悟った俺は先の攻撃魔法の発動を中断して違う魔法を発動する。


 カキンッ! カキンッ! カキンッ! カキンッ!

 金属同士がぶつかり合う音と共に、俺の目の前に直径1mほどの円盤状の鉄の壁が現れた。
 そう、これはさっきフィオーネからコピーしておいた魔法であり、俺の持つ唯一の防御系魔法だ。

 一瞬ではあるが、強力な壁によって守られた俺は安堵して胸を撫で下ろし、冷静に戻ることができた。

(とにかく、こいつから逃げることは不可能に近いだろう。ならば、もうこの鉄の壁はしばらく使えないことだし、次の攻撃を打たれる前に倒すしかない!)

 自分の判断に従って、一旦、攻撃を放つのに余裕を持たせるために、鉄の壁が消える前にバックステップで2mほど下がる。
 と、その瞬間、俺の行動に刹那遅れて、黒ずくめの男が鉄の壁の横から俺がさっきまでいたところ目掛けて短剣を振り下ろしてきた。

(あぶなっ)

 間一髪のところでそれを避けられた俺は、後退しながらも準備していた、俺の最大火力を誇る魔法——火炎砲弾(ファイヤー・シェル)を打つべく、やつに狙いを定める。

「喰らえ!!」

 俺の右手から放たれた火炎球が、空気を振動させるほどのスピードで直進した。
 直後、その店内を全て覆うほどの爆発が起きる。
 建物の破片や店の商品が飛び交い、粉々になったそれが空間を白く染めた。


「……やったか?」

 飛んできた破片によって、体のいたるところに痛みを感じる。
 幸いなことにどれも軽傷と言えるほどのもので、せいぜい、服が着られて血が出ているくらいだ。

 俺は爆風に目を細めながらも、状況を確認しようと晴れて来た視界に意識を集中し始めたところ、突如、横腹に衝撃を覚える。

「はっ!!」

 痛い。めちゃくちゃ痛い。死ぬほど痛い。
 前世では味わったことのないほどの痛みだ。
 呼吸ができない。痛みで何も考えられない。吐きそうになる。

 たった一瞬のたった一撃の攻撃で、俺は意識を奪われるほどのダメージを負う。
 痛みを感じる方へ目を向けると、そこには黒ずくめの男が俺の横腹に剣を突き刺している姿があった。

 以前の、俺がこの世界に来る前までのひ弱オタクな俺なら、間違いなくここで戦意を失ってこのまま倒れていただろう。
 だが、あいにく、今の俺は身体強化と回復増進の能力を持っており、そして何より——

「——アミラに殴られ慣れてんだよ!!」

 俺を刺した方の腕を掴み、もう片方の拳を身体強化と加速によって最高威力にして、やつの顔面を吹き飛ばした。

「っぐ!?」

 しっかりと抑えていたはずの俺の手から抜けるほどの勢いで吹き飛んだやつは、そのまま壁に打ち付けられて倒れている。
 無意識で今のうちに追撃をすべきだと判断していた俺は、二番目の威力を持つ攻撃系魔法——火炎散弾(ファイヤー・ショット)を放つべく、やつを殴った衝撃で麻痺している手とは逆の方の手をやつに構えた。
 そうこうしているうちに、やつは立ち上がろうと踠いている。

「……ファイヤー・ショ——っは!?!?」

 しかし、俺の魔法は発動せずに終わった。
 なぜなら忽然として、標的が姿を消したからだ。

 やつが壁に打ち付けられてから今までずっと、ひと時も目を離さずにいたと言うのに、突然、そこにいるはずのやつの姿だけが消えてしまった。
 意味がわからない。

(どこだどこだどこだ!! どこにいる!?!?)

 先のやつの攻撃や、おそらく魔力の大量消費によって体力を奪われたせいで冷静でいられなかった俺は、必死になってやつを探す。
 右、左、後ろ、正面、上、下。
 俺の放った火炎球によってまだ煙と炎が止んでいない店内を、脇腹に感じる痛みに耐えながらもくまなく見渡した。
 だがやはり、やつの姿はどこにも見えない。

(まずいまずいまずいまずいまずい! これ以上は後一発しか攻撃できないし、もう一度あんな攻撃を食らったら間違いなく俺はただじゃすまない!! どこにいる? やつはいったいどこに隠れているんだ!!!)

 店内に充満していた煙もはけてきた頃、俺の背後から『ドタンッ!』というような鈍い音が響いた。


「くっ!?」

 慌てて振り向いて、片手で体を守るように庇いながらも、もう片方の手でいつでも魔法を打てるようにしながらその先を見ると、

「栄一!! 大丈夫!?!?」

 そこには必死の形相で俺を見ているアミラがいた。
 彼女の足元に目をやると、そこには黒ずくめのやつが倒れている。

「さすがはアミラだ……」

 おそらくアミラがやつを倒してくれたのだろうと思って、一気に緊張が解けた俺は、急に足に力が入らなくなり、そのまま倒れ込んでしまった。

「栄一!!!!」

 薄れゆく意識の中で、アミラが泣きながら俺の傷口に手をかざしているところが見えた——。

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