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第五話 ふざけんなクソ女神 (1)

「待ってくれ! 俺はなにもしていない!」

「⊆〒@▼□〒!!」

 死刑執行人が異世界語で俺を怒鳴りつけて、俺の必死の説得も意味がなくなる。

「やめてくれ!! あれはただの事故だったんだ!」

 そんな言い訳はもちろん聞き入れられず、と言っても、そもそも日本語が通じないので当たり前なのだが、執行人が俺の手のひらから釘を打ち込んで俺を十字架の木の板に固定した。

「ぐはぁっ!!」

 俺の悲鳴がその場に鳴り響く。周りにいる野次馬たちが『ざまぁみろ』と言ってるような表情で見てきていて、とてつもない孤独感に襲われている。

 嘘だろ、俺はこんなところで死ぬのか? たかが人とぶつかって萌えキャラの痛いシャツを着ただけで!? ふざけんじゃねーよ!!

 この世界の理不尽さを訴えていると、いよいよ執行人が斧のようなもので俺の腕を真っ二つにした。


「ぐわぁあああああああああ」

 耐えきれない痛みにまるで野獣のよう悲鳴をあげる。

(こんな痛いことが世界に存在していたなんて……。もうだめだ。俺は死ぬんだ)

 そんな感じで諦めかけてた頃、執行人の一人が俺の首を切り落とそうと大きく剣を振りかぶった。

「うわぁああああああ——」


 ——そこでとっさに俺は起き上がった。
 目に映るのは白くて広い部屋。
 俺は今、ふかふかの布団に包まれたベットに上半身だけ起こして座っている。
 わけがわからないが、とりあえず切られたはずの腕も手のひらを見てみるとそこには傷一つなかった。
 どうやら今の処刑の一連の話は夢だったらしい。

 一気に脱力した俺は再びベッドに横たわる。

「知らない天井だ」

 前回、異世界の部屋で初めて起きた時にこのセリフを言えなかったことに、1アニメオタクとしてとてつもない後悔を覚えていたので、その無念をここで晴らした。
 ちょうど部屋も真っ白で、夢も悪夢だった、というなんとも幸運的なシュチュエーションに思わず頬が緩む。

 牢獄にいたはずなのになぜ今こんなところにいるかとかそんなことは考えずに、『死ぬまでに言いたいアニメセリフベスト30』の一つをクリアしたことに喜んでいると、

「やっと起きたの〜」

 そんなことを言って一人の美少女が部屋に入ってきた。

「……えっと、誰です?」

 いきなり現れた、そこらのアイドルより数段かわいいリアル女に、俺は至極当然な質問をする。

「私はルーナ。あなたをここに転生させた女神。」
「あぁ〜。そうですか女神様ですか……。って今なんて言った!?!?」
 得意げにそう言った彼女に、一瞬納得しそうになったが衝撃的な内容に思わず聞き返す。

「ん? だから私は女神よ! あなたをあの異世界に転生させてあげたの。……君はまだ寝ぼけてるのかい?」

 腰に手を当てて困ったように首を傾げて美少女はそんなことを言う。
 その動作にふわりと宙を舞った彼女の長くて綺麗な髪は、薄いピンク色ということもあってか、俺の目にはとても幻想的に映った。さらに一眼見たときから『本当に3次元の女なのか?』と疑ってしまうほどに整った顔立ち。どこか神秘的な雰囲気を漂わせているし、女神というのも納得できる。
 俺はそんな彼女に見惚れていると、

「まぁ起きたばかりでなんだし、とりあえずお茶でも入れてあげるわよ。付いてきて」

 と女神が『しょうがないわね』といった様子でそう告げた。
 まだ起きたばっかりでしかもよくわからない場面に混乱している俺を尻目に、彼女が最初入ってきた扉の方へと歩き出したので、急いで俺もベッドから起き上がる——。


  ◇◇◇


「——なるほど。女神様は、俺の願いを叶えるために俺を異世界に転生させてくれたんですね?」
「そう! データによると君はずっと異世界に興味があった様だし、まぁ転生させてあげようかな〜ってね」

 先ほどまでいた部屋と同様に、白を基調とした西洋風の部屋で彼女が入れてくれた紅茶を片手に、相変わらず意気揚々と語る彼女からことの経緯をだいたい聞けた。

 話によると、俺がさっき言ったみたいにこの自称女神様が俺を異世界に召喚してくれたらしい!
 ここは天界にある彼女の空間で、牢獄にいた俺を見つけ出して体ごと転移させてくてたと言うなんとも女神らしい所業!!
 そういえばさっきから日本語で会話ができているし、俺が転生されたと知っていることから、彼女の言っていることの信憑性は高いと思われる。

「本当ですか!? いやぁ良かった〜」

 そう言って喜んでいる俺を見て、突然なぜそんなにも喜んでいるのかと思った女神さまが?マークを頭上に浮かべる。

「いやね。最初転生された時はそりゃ嬉しかったけど、いざ現実を見てみると言葉は理解できないわ、身体能力が何も変わってないどころか魔法もチート能力も使えないわ、何したらいいかわからないわでもう完全に詰んだと思ってたので」

 そうやって事情を説明して見たがまだ納得できてない様子の彼女に

「ようやくこれで、チート的な凄まじい能力だとか魔法が使えるようになるじゃないですか。言語理解の能力も。それに、『勇者になって魔王を倒して』みたいなとりあえずの目標も提示してもらえるし」
 そこまで言うと、『なんだこいつ』とでも思っているのが伝わってくるような顔をした女神が俺に衝撃的事実をもたらした。


「何言ってるの? あなたに能力なんて付与してあげるわけがないじゃない?」


 もう俺は何がなんだかわからなかった。

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