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真山がチュロスを抱えて帰ってきた時には、茉耶華の気分はだいぶ落ち着いていた。
彼が差し出したチュロスをちみちみとかじりながら、ぽつぽつと喋り出す。
「ねえ、先輩?」
「ん、なんだい?」
「私、先輩にお聞きしたいことがあるんです」
「いいよ、なんでも聞いてよ」
茉耶華はしばし口を止めて、彼の表情を伺った。
キラリと白い歯が爽やかな好青年だし、顔も悪くはない。
しかしその分、何も悩みがなさそうにも見える。
「うん、先輩なら大丈夫そう」
「何が?」
「先輩、体のどこかに、星型のアザとかありませんか?」
「あるけど、それが何か?」
「うわあ、話が早い。先輩は、世界を救って、お姫様と恋愛してみたりしたいと思いませんか?」
「ちょちょ、まって、話が見えない」
彼は形のいい顎の下に指を当てて何事をか考え込む。
しかし、その表情はやはり爽やかで、何も考えていないみたいに見えてしまう。
ややあって、彼はパチンと指を鳴らした。
「そうか、お姫様ごっこだね! 君が姫で僕がナイト」
「あー、いや、そういうこっちゃないんです……」
「いいよ、いいよ、照れなくても。つまり姫君のように扱ってほしいと、そういうわけだね」
真山はいきなり地面に片膝をつき、片手は胸に、もう片手は茉耶華に向かって差し出して、恭しく頭を下げた。
「さあ、参りましょうか、姫」
茉耶華が小声で呟く。
「うーわー……イタいわ〜」
「ん? 何?」
「いえ、何も。それより、その星型のアザっていうの、見せてもらえますか?」
「いいけど、その前にさ、もっと親密にならない?」
「親密に……あ、もしかして、え、そ、そういうところにあるんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、さ」
真山が茉耶華の片手をそっととった。
「君、僕に何か言いたいことがあるんじゃない?」
「ありますけど、それにはまず、アザの確認をですね……」
「いーやーだ。先に僕を好きだって言ってよ」
「はああ? なんでそんなことになってるんですか」
「だってこれ、デートだよね」
「まあ、一応そうですね」
「じゃあ、好きだって言ってよ」
「それとこれとは話が別……」
突然吹き渡る一陣の風が、二人の言い争う声を吹き飛ばした。
「きゃ!」
砂埃に巻かれて顔を覆う茉耶華と真山を、数人の人影が取り囲む。
明らかにピンチ!な状況であった。