7
一通りの乗り物を楽しんだ後で、真山は茉耶華をベンチに座らせた。
「何か食べるもの買ってくるよ」
「食べるものはちょっと……うぷっ」
直前に乗ったコーヒーカップのダメージで少し目眩を覚えた茉耶華は、正直な話、何かを食べるどころの騒ぎではない。
「うう、ふわふわする……」
視界は揺らめき、胃の底からは不快感がこみ上げてくる。
ところが真山は、爽やかに微笑んでそんな茉耶華の肩を叩いた。
「遠慮しなくていいよ。ここのチュロスがすごく有名でさ、女の子はみんな大好きなんだって」
「いや、本当にいらないから」
「いいからいいから、ちょっと待っててよ」
浮かれきった真山はスキップを踏むような足取りで遠ざかってゆくのだが、今の茉耶華にはそれを追いかける元気すらない。
「うう、気持ち悪い〜」
頭を抱え込んだ茉耶華の耳に、植え込みを揺らす音が聞こえた。
「ん?」
顔を上げるが、もちろん誰もいない。
ただ、ベンチの隅に先ほどまではなかったミントタブレットと炭酸水のボトルが置かれている。
「ああ……」
茉耶華はそれが典正の気遣いなのだとすぐに気づいた。
黒をベースに緑色のロゴが入ったミントタブレットは、典正がよくポケットに入れているものである。
「馬鹿ね、誰からかわからない差し入れとか、普通の女の子は拾わないわよ……」
しかし、のりまさの気遣いを無駄にするのも気がひける。
だから茉耶華はわざとらしく大きな声をあげた。
「わあ、きっと真山先輩が置いていってくれたんだろうな〜」
植え込みの中で小さな笑い声がしたような気がする。
きっと典正が、自分の作戦がうまくいったことに満足して含み笑いしているのだろう。
茉耶華はミントタブレットを数粒、口に放り込んで炭酸水を煽った。
胸のあたりを清涼なミントの香りが満たす。
「ほんと、馬鹿ね」
ポツリとつぶやいて、茉耶華はミントタブレットを歯の間で噛み砕いたのだった。