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デート当日、茉耶華は遊園地の入り口前で仏頂面であった。
「おかしいなーとは思ったのよね」
目の前にいる男は典正ではなく、白い歯を見せて爽やかに微笑む真山である。
「今日は1日、よろしくね」
一般大多数的に好ましいと感じるであろうハキハキしたしゃべり口も、朝日を背後にキラーンと明るいルックスも、何一つ茉耶華の心には刺さらない。
「うっわ、胡散臭い……」
しかし、茉耶華にはここで帰るわけには行かない理由が二つ。
一つ目は、自分がこちらの世界に来た理由……茉耶華はある条件を満たした人物を探している。
争いに満ちた世界を統べる資格を持つ、王の印を持つ男を、彼女は探しに来たのだ。
(そうよ、印があるかないか見極めたら帰ろう)
そう思いながら、茉耶華は入り口前エントランスの柱の影を見た。
そこには二つ目の理由がいる。
「あああ、なんか、よその男とデートする妹を見守るお兄ちゃんの気持ちって、甘酸っぱいな、アマンド」
「せやな」
恐らくは変装しているつもりなのであろう、サングラスをかけてかつらをかぶった典正とアマンド…….いや、茉耶華から見たらバレバレで笑いしか起きないほどちゃちな変装だが。
典正はともかく、アマンドの方は茉耶華が自分の存在に気づいていると自覚しているのだろう、サングラス越しの視線が監視するように険しい。
(わかってる、これが私の使命なんだから、デートの一つや二つ……)
茉耶華はニッコリと微笑んで真山の隣に並んだ。
「ちゃあんとエスコートしてくださいね、センパイ?」
あざといくらい舌ったらずの声で、顎を引いた上目遣い。
真山が「はう」と軽く胸を押さえる。
「も、もちろんだ、今日は僕に任せてね」
「んー、やっぱり違うな、もっとさりげなく『
任せろ』くらいのノリで言って欲しいかな」
「え? あ、ま、任せろ」
「うわあ、なんか、日曜朝のテレビで見かけるような爽やかさですね」
「え、ダメ?」
「いや、いいんじゃないですか、てか、どうでもいい」
茉耶華がくるりと身を翻し、入り口ゲートへと向かう。
「ほら、センパイ、早く〜」
「くうっ、そういう小悪魔的なところもいい!」
真山は少し悶えながら、そんな彼女の背中を追ったのであった。