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家で真っ先に典正を出向かえたのはエプロン姿のアマンドで、これは取り込んだ洗濯物を抱えてリビングに入ろうとしているところだった。

「おお、おかえり、どうや?」

そんなアマンドに向かって、典正は親指を立てて応える。

「ばっちりだ、次の日曜日、戸島園で待ち合わせの約束を取り付けてきた」
「ああ、どうしてもデートに落としこみたいわけやな。まあワイはそれでもかまわんけどな、姫さんが……」

そんなアマンドの言葉など聞かず、典正はリビングのドアをくぐった。
茉耶華はちょうどソファにだらしなく寝っころがっていたのだが、典正の姿をみると慌てて起き上がり、膝を内股に合わせて可愛らしく座りなおした。

「な、なによ」
「茉耶華、お前、今週の日曜日は暇か?」
「まあ、特に用はないけど、暇ってわけでもないかな」
「じゃあ、暇にしろ」
「何よ、いったい」
「ふふふふふ、喜べ、デートだ」

茉耶華の顔が湯気噴くんじゃないかというほどボッと赤くなる。

「はああああああ? 何言ってんの?」
「デートだ、デート。場所は戸島園、チケットは俺が手配するから、何も心配するな」
「ばばばばばばばバカじゃない、なんでそんなのに行かなきゃならないのよ」

二人の間には明らかな誤解があるように見える。が、おもしろいのでアマンドは黙ってみていた。

「子供じゃあるまいし、遊園地とか、行かないっ!」
「そんなことを言うでない、異世界人であるお前は、遊園地などいったこともみたことも無いだろうに」
「行ったことはないけど、テレビでみたもん。同じところをクルクルまわる木馬とか、おもしろくなさそう」
「メリーゴーランドか、確かに大人しい乗り物だからな、あれは子供が乗るものだ。我々の年になって乗るのは、ジェットコースターやバイキングだな」
「それもみた。レールの上を走ったり、同じところを振り回されたり、それの何がおもしろいのよ」
「これだから異世界人というのは、ふ」
「なによ、その気持ち悪い笑いは!」
「いいか、お前でも分かるように例えてやろう、例えばここに身長二十メートルの巨人がいると思え」
「ああ、うん、ギガンテスね」
「お前がいるのはその掌の中だ。そして、巨人は一気に手を振り上げる」

その光景を想像したのだろうか、茉耶華が身を竦める。

「ひゃうっ!」
「そのあと、ゆっくりと、巨人は腕を下ろしてくれる……」
「ほっ」
「……と思いきや、腕は再び大きく振り上げられるぅ!」
「ふひゃああ!」
「ま、腰の抜けた異界人の姫には少々刺激がつよすぎる遊びかも知れん」
「腰なんか抜けてないもん、全然平気だもん!」
「よく言った。ならば次の日曜日」
「望むところよ!」

立ち上がった典正は、リビングを出ながら一度だけ振り返った。

「あ、デートだからな、ちゃんと可愛い格好にしろよ」
「だから、デートじゃないってば!」
「ふ、分かっているさ子猫ちゃん、いきなりデートはウブなネンネにゃ荷が重い、まあ、ただ遊びに行く感覚で、気楽にしているが良いさ」

典正が小粋なウインクを茉耶華に投げる。

「大丈夫だ、なにがあっても兄ちゃんが守ってやるから、さ」

茉耶華がぽおっと呆けて見送る中、典正は高笑いと共に階段を上ってゆく。
後に残された茉耶華は、クッションを引き寄せてもふっと顔を覆った。

「ど、どうしよう、可愛い格好だって!」

アマンドはすでにこの二人のすれ違いに気づいてはいるのだが……

「ま、ええか、悩む姫さん、かわええし」

ニコニコと微笑むアマンドに見守られながら、茉耶華は落ち着かぬ気持ちを押さえ込もうとするようにクッションを強く抱きしめ、桃色に染まるんじゃないかというほど甘く悩ましい吐息を長々と吐き出すのであった。

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