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「はあああっ!」
典正が驚きの声をあげて目を覚ますと、そこはベッドの中だった。
先ほどの出来事が夢ではなかった証拠に、小さなドラゴンは自分の顔を覗き込んでいる。
「気分はどうや?」
「あ、ああ、悪くない」
「ほっぺた、痛ないか?」
左頬に手をやれば、ひんやりシートが貼り付けられていた。
「ウチの姫さん乱暴ですまんな」
尻尾を垂れるドラゴンに手を伸ばして、典正はその頭を撫でる。
「いや、こうして手当てなどしてくれるところをみるに、性根は優しい女性なのだろう」
「あ、それ貼ったのワイや」
「……」
「姫さんはアンタにとどめ刺そうとしとってな、ワイがとめたんや」
「と、ともかく、あなたたたちの世界では女性はみんなあのように強いのか?」
「せやな、特にウチの姫さんは戦姫っちゅうやつでな、そこらの男より全然強いで?」
「いくさひめ?」
「なんっちゅうんやろ、アンタみたい平和ボケした世界に住んでるとわからんやろけどな、姫さんのいた世界では、力の強いモンが正義なんや。せやから王国というものを維持するためには、王族は誰よりも強くなくてはならない、で、姫さんも幼いころからありとあらゆる戦闘術を教えこまれとってな、そういう、戦うために育てられたんが『戦姫』呼ばれるんや」
「ということは、だ、闘うために育てられた姫とは別に、戦姫とは呼ばれない存在もいるってことだな」
「お兄ちゃん、なかなか賢いな。ウチの姫さんは五人姉妹の末っ子だから戦姫にさせられたけどな、一番上の姉ちゃんは王位を継ぐ王子を婿に迎えるために本物の姫さんとして育てられた、姫オブ姫や。そういうのをこっちでは『真姫』呼んで、で、戦姫はこの姫君を守るんが宿命やな」
「ならば、その戦姫が守るべき真姫の傍を離れてこちらの世界に来ているというのは、おかしいんじゃないか?」
「あ~、それはまあ、事情があって、姫さんは言いたくないみたいやけど、実はな……」
「ふ、いわずとも良い。事情はあるが、それを話せない……訳アリの女をかくまうなど、いかにも異世界に転生するサダメを与えられたわが人生にアリガチな展開!」
「いや~、お兄ちゃん、ノリノリで助かるわ~」
「つまり、俺の戦闘力が戦姫である彼女を超えれば、俺を優秀な戦士と認め、異世界へといざなってくれるのだと、そういうことだな」
「わ~、ほんま、お兄ちゃんノリノリで扱いやすいわ~」
典正は左頬に手を伸ばし、ひんやりシートの端を親指と人差し指でつまむ。
「ふふふふふ、おもしろくなってきたじゃないか、転生までしようという人間の人生は、やはりこうでなくてはな」
ひんやりシートを一気にはがし、彼はすっくと立ち上がる。
「よかろう、我が家を異世界より来たりし客人の寄寓として提供しようではないか!」
「ホンマか、助かるわ!」
「しかも紳士協定つきだ! 彼女の貞操は俺が守ると約束しよう!」
「おお、おおきに!」
「おもしろい、本当におもしろいぞ、ふははははは!」
「なんやようわからんけどワイも楽しくなってきたわ、ふははははははは!」
二人の笑い声が敷島家の寝室にこだまするのであった。