日替わりデート
ミイとの2回目のデートは、デパートでのショッピングだった。
彼女は服の専門店に向かったので俺はついて行った。物資が不足しているし、派手な物が少ないが、それでも彼女は嬉しそうに服を選びながら、俺に一つ一つ見せて、どれが似合うか聞いてくる。
(ちょっと、はしゃぎすぎかな?)
俺が周りを気にすると、急に彼女自身も恥ずかしくなったのか、はしゃぎすぎたと謝った。
こちらはただ買い物に付き合っているだけなのだが、彼女は「そばにいてくれるだけで嬉しいです」という。気持ちが行動に出ているのだろう。
彼女はお気に入りの服が見つかったらしく、5万円払っていた。
この並行世界では物価が高騰していて、俺のいた世界と金銭の価値が10倍くらい違う。
缶コーヒーが1千円。コンビニ弁当が4千円。昨日のパーラーのパフェは9千円もした。
そんな具合なので、彼女の服が5万円といっても俺の元の世界では5千円の買い物だ。
彼女の買い物袋は1つだが、俺が持ってあげた。
ウインドウショッピングにも飽きてきたのでデパートを出ると、日も暮れてすっかり暗くなっていた。
「家まで送ろうか」と彼女に声をかけたが、彼女は俺から買い物袋を受け取り、「今日はここで」と言って分かれた。
(さて、次は妹対策だ)
俺は家路についた。
帰宅するとさすがに嘘は突き通せず、プンプン怒っている妹に「デートだ」と正直に答えた。妹はあきらめ顔で言った。
「ついに、始まったのね」
俺にはその意味が分からなかった。
ミキとの2回目のデートも、同じデパートでのショッピングだった。しかも彼女が向かった先は昨日と同じ店。
彼女はジックリと時間をかけて服を選んでいる。
昨日も見かけた女店員がジロジロと俺の方を見るので気が気でない。
彼女は昨日ミイが買った服を手にして、「これ似合う?」と聞いてくる。
俺は慌てて、「こっちがいいんじゃないかな?」と違う服を薦めた。しかし、彼女は「ううん」と首を横に振って、手にした服を離さない。
結局、彼女はミイと同じ服を持ってレジへ向かった。
女店員がニヤニヤと俺に何か言いたそうな顔をしていたので、目をそらした。
(なんか、気まずい)
早くこの店から出たかった。
彼女は会計を終えて俺のそばに来て「こうして、そばにいてくれるだけで嬉しい」と言う。俺は顔を赤らめた。
彼女の買い物袋は1つだが、俺が持ってあげた。
(また同じことをしている)
昨日の出来事を繰り返しているように思えてきた。
ウインドウショッピングにも飽きてきたのでデパートを出ると、日も暮れてすっかり暗くなっていた。
家まで送ろうかと声をかけようとしたが、慌てて言葉を飲み込んだ。
彼女は俺から買い物袋を受け取り、「じゃ、今日はここで」とアッサリと分かれた。
俺は重い足取りで家路についた。
帰宅すると昨日と同じく、またプンプン怒っている妹に「デートだ」と正直に答えた。
妹が「同じ人と続けて?」と問うので「違う人」とこれも正直に答えた。妹は、今度は呆れ顔で言った。
「記憶喪失で忘れているみたいだけど、前も同じことしたのよ。反省しないわね」
俺というか偽の俺の二股は経験済みのようだ。
仕方なく弁解した。
「もう二人に約束してしまったので、明日も明後日もデートする。二人にはそれぞれ後1回だけにする」
妹は呆れ顔のまま、「また二人とも泣かせるのよ」と言った。
妹が心配している意味がようやく分かった。
「泣かせないよ」とは言ったものの、実のところ二人を泣かせない自信などなかった。
ジュリ以外の女生徒と付き合うことがなかった俺が、付き合い方を知らないまま並行世界で二股かけて悩んでいる。
しかも日替わりデートときた。
絵になるくらい馬鹿げた笑い話であるが、当人はいたって深刻な話なのだ。
ミイとの3回目のデートは、公園だった。
学校の校庭と比べて半分くらいの広さで、たくさんの花が植えてある花壇が中心にある。そこをぐるりと一周する道の所々にベンチがある。
綺麗な花がちょうど前に見える位置のベンチに来ると、彼女が「こ、ここがいい」と言って腰掛ける。俺は彼女の左に並んで腰掛ける。
彼女は足をブラブラさせながら、下を見てしばらく何か考えていた。
俺は声がかかるまで向かいの花を見つめていた。
やがて、視界の中で彼女が動いたように思えたので彼女の方を見る。彼女が顔を上げて俺に視線を注いでいる。
「あ、あのー……」
「何?」
「ほ、他に好きな人います?」
俺は固まってしまい、やっとの思いで声が出た。
「いや……これと言って好きな人はまだ」
彼女は目をさらに細めて微笑む。
「マ、マモルさん、ハンサムだから。い、いろんな人に告白されますよね」
図星だったので、さらに固まって声も出なかった。
「そ、それでも私はマモルさんのことが好きです」
「ありがとう……」
それから二人で世間話をした。彼女は緊張がほぐれて普通の話し方になった。
(デートでこんな話はしないよな。お互いのこともっと話してもいいはず。何か言いたくないことでもあるのだろうか?)
話も尽きた頃に、彼女が腰を上げた。
「遅くまで、ありがとうございました。これで帰ります」
「ああ、今日はありがとう」
彼女は一礼して去って行った。
少々名残惜しそうな様子にも見えたが、早く帰らなければという雰囲気が会話の中に漂っていたので、俺は彼女の後ろ姿を見送り、後は追わなかった。
だんだん、彼女は引き留めて欲しかったのではないか、と思えてきた。
(俺って、鈍いのかな?)
ただただ後ろ姿を見送った自分が情けなかった。
ミキとの3回目のデートは、昨日と同じ公園だった。
彼女が「あのベンチがいい」というベンチは、昨日ミイと座ったベンチだ。
気まずくなって躊躇したが、結局二人で腰掛けた。
並んだ位置関係も昨日と同じだ。
彼女は足をブラブラさせながら、下を見てしばらく何か考えていた。
(昨日のミイを見ているようだ)
声がかかるまで向かいにある昨日見飽きた花を見つめていた。
やがて、視界の中で彼女が動いたように思えたので彼女の方を見る。彼女が顔を上げて俺に視線を注いでいる。
「聞いていい?」
「何?」
「他に好きな人いる?」
昨日と同じく固まってしまい、やっとの思いで声が出た。
「いや……これと言って好きな人はまだ」
彼女はパッチリした目を細めて微笑む。
「マモルさん、ハンサムだから。たくさんの人に告白されるかな」
これにはさらに固まって声も出なかった。
「それでも私はマモルさんのことが好き」
冷や汗が出ていたが、なんとか声に出して言った。
「あ、ありがとう……」
それから二人で世間話をした。
(あれ? 昨日のデートと同じだ。似たような世間話。なぜだろう? お互いのこともっと話してもいいはずなのに、彼女も何か言いたくないことでもあるのだろうか?)
話も尽きた頃に、彼女が腰を上げた。
「お話に付き合ってくれて、ありがとう。じゃ、帰ります」
「ああ、今日はありがとう」
彼女は一礼して去って行った。
少々名残惜しそうな様子にも見えたが、ミイの時と同じく彼女の後ろ姿を見送り、後は追わなかった。
だんだん、彼女は引き留めて欲しかったのではないか、と思えてきた。
(俺って、どうしてこうも鈍いのかな?)
昨日の反省を役立てていない自分に