5−5: 目を閉じて
「これでユニットのパージが可能なんだな?」
テリーは端末に話しながら病室に戻って来た。
「『連中』なんて言っているのに、知り合いがいるのね」
エリーはもう一度目を拭い、振り向いた。
「あぁ。連中は馬鹿だからな。俺がやってる伝播経路の研究を、出所を突き止める研究だと勘違いしてるんだ。何度言ってもわかりゃしない。だけど、そのおかげでツテはできてた」
テリーは端末をイルヴィンに向けた。
「今ここに入ってるアプリケーションに、対象となるユニット群の識別番号と、オペレータ二人の識別番号を入れればいい」
イルヴィンを指差し、自分を指差した。
「そして、オペレータがここに二人いる。ただ、問題がないわけでもない」
「問題?」
「あぁ。まず、連中もこのアプリケーションの出所を掴んでいないってこと。つまり、このアプリケーションが機能するのか、そもそも知能サービスの実態が、俺たちが話していたようなものなのか、連中にもわかっていない」
「知能サービスがそんなものじゃなく、アプリケーションも機能しないことを祈るわ」
テリーは壁にかけてあったイルヴィンの上着から端末を抜き出すと、ベッドの横に立った。
「それと、今の場合、対象となるユニット群の識別番号と、あんたの識別番号が同じってことだ。簡単に弾くかもしれない」
そう言い、エリーの手を開き、イルヴィンに端末を持たせた。
「まず、あんたの識別番号を、俺の端末に言ってくれ」
イルヴィンは、エリーを、そしてエリーの両手に包まれた左手を見た。
「エリー、端末をこっちに。それと番号を表示してくれないか。頼む」
エリーはテリーに目をやり、そしてイルヴィンを見た。
「頼む」
イルヴィンはもう一度言った。
エリーは端末をイルヴィンの手に納めたまま、識別番号を表示させた。
「もし、あなたが消えても、あなたのような人はこれからも現れるでしょうね。知能サービスがそういうものなら。だから、この世界を終らせることはできないとしても、あなたを終らせる結果にはなるかもしれない。本当にいいのね?」
「あぁ。それを知りたいんだ」
エリーはイルヴィンの左手を、イルヴィンの目の前へと持って行った。
テリーは自分の端末をイルヴィンの顔の横に突き出した。
「912222646708071」
イルヴィンは端末に表示された自分の識別番号を読み上げた。テリーは自分の端末を目の前に戻し、入力を確認した。
「もう一度読み上げてくれ。確認したい」
「912222646708071」
イルヴィンはもう一度識別番号を読み上げた。
「入力は間違いなし」
そう言い、端末を突いた。
「今、俺の識別番号を入れた。あとは、あんたの端末に接触させて、あんたの識別番号を読み取るだけだ」
テリーは、イルヴィンの目を見て、そしてエリーの目を見た。
「止めるなら間に合うぞ。あんたがやれと言ったら、俺は躊躇せずにやる」
イルヴィンは目を閉じた。
「エリー、ありがとう。テリー、やってくれ」
イルヴィンは、左手が揺れるのを感じた。