85.神獣が悲鳴を!
「こちらウイークエンダー・ラビット。
遅れて、ごめんなさい」
『こっちこそ、ごめん。
あの巨人は捕らえたけど、だいぶ逃がされちゃった』
くやしいな。
達美さんたちも、ピンチだったんだ。
ウイークエンダーとパーフェクト朱墨は、河川敷でしゃがませるしかなかった!
応援部隊から正式な報告が来た。
「まもなく発進するそうです。
臨時指揮官はレイドリフト2号、狗菱 武産さんです」
あぬびし むう、と読む。
いぬびし、と読むと怒る。
彼女はルルディ騎士団の団長で、夫妻に次ぐ指揮権があるの。
「何がなんでも、居座るそうです。
国王夫妻から、いなくなった理由を聴くまでは」
その決意にみんながまとまり、編成は成った。
「出動に時間がかかった分、多くのヒーローが集まったそうです」
『そっか。
いい知らせだね』
ほかにショートメールもきたけど、こっちはいいと思う。
個人的なものだから。
こっちへは来ない、と言い張ったヒーローがいた。
ルルディ国王夫妻の行動が理解できなくて、「行っても恥をかくだけじゃない」と落ち込んだらしい。
要望も来た。
私と朱墨ちゃんが、状況報告すること。
それは、たしかに重要だよ。
だけど腹が立つことだった。
それでも、割りきった。
常備してる栄養ゼリーをとりだす。
それを飲むにも必要な時間だったと思って。
『こっちからも知らせよう。
国王夫妻の居場所は、たぶんあそこだよ』
達美さんの七星が指差したのは、街中。
だけどそこにあったのは、キャプチャー。
なんだよね?
ただし、街から山の一部まで包んだ、ドーム状の巨大なやつで・・・・・・。
ドームと見ることはできるけど、多くの人は山と言うかも。
『逃げだした巨人とか、こん棒エンジェルスは、あそこに駆け込んだよ』
達美さんの七星の足元、かつて巨人だった人が入ったキャプチャーがある。
もてあそぶ。
「そう言えば、ボルケーナ先輩はどこです? 」
『あの超巨大キャプチャーの中。
と言うか、お義姉ちゃんを捕らえるために、あれを発生させたみたい』
「捕まったんですか!? 」
『巨人、閻魔 文華を飲み込んでたの。
私たちの攻撃で、吐き出させたんだけど』
その声は、語る光景がどれほど不気味だったか、よく伝えた。
『お義姉ちゃんは「閻魔 文華は、隠れてろ! 」って叫んで、街に走りだして。
そしたら超巨大キャプチャーがでてきたの』
しっぽに文華のキャプチャーを固く結んだ先輩が、リアルに思い浮かんだ。
あの人のしっぽは、どこまでも延びるしなんでも持ち上げるから、便利なんだ。
突然、ウー ウーとけたたましい電子音!
ポルタ警報?!
突然、夜空が明るくなった。
いきなり昼になったみたい。
だけど、太陽がでたわけじゃない。
星空が一気に倍になっていた!
赤、白、青、黄、いろんな星が、渦巻いて銀河を作る。
銀河がさらに集まって、網の目のように並ぶ。
その間を流れるのは、カラフルな星間ガス。
地上の目からは見えない。
巨大な重力が支配する、宇宙の構造体。
そうとしか言えない。
そう言えば、宇宙の匂いを表した人がいたっけ。
火薬、表面をあぶったステーキ、ラズベリー、ラム酒。
今の外は、その匂いで満ちてるはず。
全ての物理法則を支配して、ポルタを作りながら。
それは、とても美しくみえた。
アレが本当に人間なんだよね。
宇宙の一角が持つ意思を、そのまま受け継いだ女子高生がいるの。
天才天文学者、初島 愛さん。
ヒーローとしての名前は、レイドリフト・メタトロン。
レイドリフト1号が作ったヒーロー検定。
それを突破した者の中でも最強の1人。
レイドリフト四天王。
その移動だけでも、周囲が激しくゆれる。
ブルブル ブルブル!
「なんか、ゆれにムラがあるよ。
壊れてるんじゃない? 」
『違います! 』
アーリンくんから。
『ゆれているのは、超巨大キャプチャーです! 』
おびえて、震える声で答えてくれてる。
たしかに、黒いドームは街もろとも、ゆれていた。
法則性はない。
けど、短い間隔で。
『ギャー! 』
ひときわ大きな振動!
声だ!
振動を起こしたのは、声なんだ!
レイドリフト四天王に勝てる、数少ないヒーロー。
ボルケーナ先輩の悲鳴だ!