第187話 地表に現れた犯意の源
「07式のオペレーションシステムに接続!コントロールをそちらに任せます!」
誠の言葉にモニターの中でかなめが頷いた。抵抗する厚生局の07式の左わき腹の装甲板を引き剥がされてマニピュレータで有線でシステムに侵入されても07式のパイロットは投降する意思を示さなかった。
『しばらくそのまま抑えていてくれ。西園寺がシステムを掌握すれば私達の仕事は終わりだ』
安堵の表情。いつも緊張して見える画面の中のカウラの顔が笑顔に変わった。誠も自然と集中していたために額から流れていた汗に気づいて苦笑いを浮かべながら空調の温度を下げた。
『安城少佐隊は一階まで制圧したらしい。厚生局幹部の全員の身柄も拘束済み。後は……』
『例のプラント……化け物の回収か……』
首筋のスロットにハブを差し込んで何本ものケーブルをぶら下げているかなめがつぶやいた。何本ものコードを首元に刺したかなめの姿に少しばかり誠は驚きの表情を浮かべた。
『神前。何見てんだよ?』
かなめの言葉に心を見透かされたように感じた誠は意味も無く頭を下げた。
『システムを制圧した。カウラ。包囲してる機動隊の上に連絡して07式のパイロットを抑えさせろ。どうせ同盟機構加盟反対派の遼州人至上主義者が乗ってるんだ。下手に刺激するなよ、自決されたら面倒だ。後でどういう指示を上から受けてここに居たのか聞き出さなければならない』
誠はようやく力が抜けてだらりとシートに身体を投げた。すでに日付をまたごうとしていた。07式の機能停止により東都警察の機動隊は投光車両を並べて一斉に誠の機体と、大破した東和陸軍標準色の07式を闇夜に映し出していた。
『ご苦労さん……良い仕事したじゃねえか』
そう言いながらタバコを取り出そうとしているかなめに目をやっていたときに誠の意識に強烈な一撃が走った。
『おい!』
カウラが叫んでいる。誠にはそれが聞こえるが身体が言うことを利かなかった。意識が朦朧として、そして何か恐怖のようなものが全身を走り毛根に血液が流れ込むような感覚が芽生える。
『どうした!神前!』
再びカウラの声が意識から遠くなっていくような状況で聞こえた。とりあえずわずかに言うことをきく左腕でオートに設定して07式に取り付こうとする機動隊の隊員達から離れるのがやっとだった。
『神前!どうしたんだ?顔色が悪いぞ』
かなめの声も聞こえるが、まるで電波の悪いところの無線通信のような聞こえ方をしていた。異変に気づいたカウラがモニターの中で地下で作戦行動中のランの隊に連絡をつけようとしているのが見えた。
『そうか……クバルカ中佐達が出会ったのかな……彼等に……』
かすかに意識の果てに浮かぶ誠の思い。そしてそれゆえにこの異変があの法術師開発用の生態プラントにされた難民達の意識のなせる技であることを確信していた。
「決着は……まだついていないんだ……」
そう思うと誠は全身に自分の力を流し込もうとしてみた。