呪われた騎士・モードレッド卿
円卓の騎士のなかで、〈呪われた騎士〉と呼ばれた男がいる。
彼の名はモードレッド。
モードレッドには不吉な噂が付きまとっていた。
ロット王のガウェインら息子たちが母親とともにかつてアーサー王を訪ねた際に、彼女がアーサー王を誘惑した結果産まれた子なのではないのかと。
実際その後、「5月1日に生まれる子に王国は滅ぼされる」とマーリンに予言されたアーサー王が、その日に生まれた子たちの虐殺を命じたことが噂の根拠だった。
モードレッドは年齢的に、その時期に生まれたのではないか、5月1日生まれなのではないか。
モードレッドは漁師の家で育ったので、5月1日生まれの子を乗せて沈んだ船から生還してその漁師に拾われたのでは、そのように言われていた。
ある時彼は真実を知るのだが、実際はロット王とその妻の間に生まれた子で、ガウェイン4兄弟と血を分けている。
だがガウェインらにはそれを教えていないし、彼らも知らない。
またそのような〈呪われた騎士〉の噂は、日頃の行いからも影響を受けている。
良き振る舞いを心がけていたし、実際そういう評価をされていたのだが、多くの人に慕われるランスロットとは折り合いが悪かった。
また戦場では果敢に戦い、いざという時には情を捨てる覚悟もある。
評価は分かれ、敵も味方も半々だった人物だが彼自身は信じていた。
自分は呪われていない、呪われていたとしても克服してみせる、と。
ある日、モードレッドはアーサー王とマーリンの会話をたまたま聞いてしまった。
かつての王ユーサー・ペンドラゴンがマーリンの力で、敵国の大将に化けてその妃イグレインに近づき産まれた子がアーサー王であると。
後に彼女の夫は打ち破られ、イグレインはユーサーと再婚するしか道がなくなった。
生まれたアーサー王はマーリンに預けられたので、彼は正式なユーサーの子とは認められていない。
だからアーサー王は、石から剣を抜いただけでは王として認められないような普通の少年として暮らしていたのだ。
「私には、王の資格があるのだろうか」
「王よ、そのようなことを軽々しく仰いますな。剣を抜いたのはあなたでしょう」
「あの時もお前に予言されたとはいえ、国中の新生児を殺すことは間違っていたのではないかと、今は思うのだ。あの王命に反対する者は多かった!」
アーサー王が乱心する姿を見たモードレッドは、ひとまず自室へ戻った。
「あの方は、ご自分がなさった行いをあれだけ後悔している。……っは! あんな姿、王としてあるべき姿ではない。失望した」
この時、モードレッドは決意した。
ロット王の嫡子たる自分が、いずれ王となろう!
そう思った彼には、ガウェインとその兄弟たちやランスロットのような人気者が障壁となることは分かっている。
モードレッドは人知れず、自分が王位を継ぐ計画を企てていった――。