第182話 怪物の本拠への突入
「対人地雷とは……中々慎重と言うか……やりすぎと言うか。本気で厚生局の人達全員でここに籠城する気なんですかね。遼北人民共和国本国からの支援なんて望めようも無いってのに……信管が……っと抜けました。たぶんこれが最後です」
島田は額の汗を拭い後ろで仕掛けられた侵入者用対人地雷の解除作業を見つめていたランに笑顔を向けた。ゆっくりと対人地雷の信管を取り上げて後ろのランに見せた。
「茜、上はどうなってる?こっちが本命とは言え、上の方が負けちまったら洒落にもならねーぞ」
ランは目をつぶり精神を集中して周囲の思念を感じ取り敵の動静を探っていた茜に声をかけた。
「武装した麻薬対策部隊の隊員が四人……まだ増えそうですわ。でもかなり焦っているみたい……おそらく安城少佐の公安の降下作戦が始まったんではないかしら。すべては予定通り……いいえ、うちが一番遅れているみたいですわ。急がないと」
茜はそう言って焦ったような調子でランを見つめた。
「じゃあこっちもオタオタしてられねーな。アタシ達が今回の作戦の一番中心になる部隊なんだ。例のプラントとその製造施設。できれば臨床研究をしている研究者まで確保できればすべて丸く収まる」
ランはそう言うと背負っていた愛用のFN-P-90サブマシンガンを構えた。ブービートラップが仕掛けられていた合同庁舎の地下に出るケーブルの検査用通路の扉にランはゆっくりと手を伸ばした。
「アタシの合図で突入だ……って島田?」
幼く見える彼女が見つめた先ではショットガンを慣れない感じで構えている島田がいた。
「おい、大丈夫か?小便したいとか抜かしたらぶん殴るからな!それと黒のシェルが通常弾。銀色のシェルが対法術師のシルバーチップだ。間違えるなよ!シルバーチップは量産が難しい貴重品なんだ。一発一発丁寧に扱え!」
ランに言われて島田は慌てて自分の銃に装填する弾丸を見た。そしてそれがいつもの黒い色だと確認すると大きくため息をついた。
「正人、慣れないなら下がっていても……私はラスト・バタリオンだから白兵戦等の技量はロールアウトした時から頭の中にインプットされてるけど。正人は素手での喧嘩しかしたこと無いんだから。さあ、私の後ろについて」
サラにまで言われて目を見開く島田だが、背中をランに三回叩かれてようやく我に返ったように銃の安全装置を解除した。
「そうだ、それで良い。茜が背後に転移してポイントマンをやれ。島田はとりあえずここを出たらバックショットを乱射して弾幕を張れ。それで相手は戦意を喪失してくれるかもしれねー」
ランの読みではこの先の施設には戦闘要員は配置されていないはずだった。弾幕を適当に張っておけばあとは取り押さえて終了。それがランが描いた戦闘プランだった。
「バックショット?なんですそれ?」
不思議そうな顔でランを見つめてくる島田に呆れたようにサラが耳元にささやいた。
「それ、シェルに赤いテープが張ってあるでしょ。それは中の弾が散弾で……」
「分かってるよ!知っててとぼけてみただけだって!」
サラに向けてそう叫ぶと島田は合同庁舎の地下駐車場に続くドアに張り付いた。そのまま続いて突入するつもりのランが島田の背中を触った。
「アタシから離れるなよ。茜、頼むぞ」
ランの言葉と共に茜が腰のサーベルを抜いた。
「こう見えても囮は得意なんですの」
ニヤリと笑った茜が正面に銀色の干渉空間を展開してそこに飛び込んだ。同時にランは島田の背中を思い切り叩いた。