第117話 第一期『特殊な部隊』
すぐにカウラは路地から国道に車を進めた。地球外惑星を代表する企業である菱川重工業の企業城下町らしく次々とトレーラーが通る国道を、車高の低いカウラの『スカイラインGTR』が走った。
「でもあれよね。乗り心地はパーラの前の車の方が良いわね」
「だったら、今降りても良いんだぞ」
余計なことを言うアメリアとそれに突っ込むかなめを振り返りながら、誠は次々と三車線の道をジグザグに大型車を追い抜いて進む車の正面を見てはらはらしていた。カウラはそれほどはスピードは出さないが、大型車が多く車間距離を開けている時はやたらと前の車を抜きたがる運転をする傾向にあった。そして駅へ向かう道を左折すると制限速度が落ちるのでがくんとスピードが落ちた。周りは古い繁華街。見慣れた豊川の町が広がった。
「あそこのパチンコ屋は駐車場があったんだが……うどん屋にはあるのか?」
「パチンコ屋の立体駐車場は取り壊し中だ。いつものコインパーキングが良いだろ」
かなめのアドバイスに頷いたカウラは見慣れた小道に車を進めた。そして古びたアパートの隣にあるコイン駐車場に車を止めた。
「じゃあ行くぞ!」
かなめの笑顔を見ながら誠は商店街のアーケードに飛び込んだ。平日の日中と言うことで客の数は思ったよりも少なかった。
「流行ってるんですかね」
誠の言葉に答える代わりにアメリアは指をさした。
そこにはすでに到着していた島田にサラ、茜とラン、ラーナの姿があった。
「おう、アメリア。丁度いいときに来たな」
「ご馳走様であります!中佐殿!」
そう言うとアメリアは素早く暖簾をくぐって店に消える。誠は『讃岐うどん』と書かれたのぼりを見ながら店の中に入った。
「いらっしゃい」
店に入ると出汁の香りが広がる。そこで恰幅の良い大将が振り向きもせずにそうつぶやいた。
「客が居ねえな……その方が都合がいいや」
ランはそうつぶやいた。その言葉を聞いて巨漢の大将が振り向いてため息をついた。まるで親子のようでほほえましいと思いながら誠はそのまま奥のどんぶりに向かった。
「それじゃあ私から!」
いつの間にか脇をすり抜けてきたアメリアが飛び出してカウンターに手をかけた。
「おたくが『特殊な部隊』の艦長さんかい……聞いてた通りでかいね」
「なんでそんなこと知ってるの……でかくて悪かったわね……ぶっかけうどんの大で」
そう言いながらアメリアは揚げ物をしている女性従業員に声をかけた。
「揚がっているのはかき揚げしかないけど……」
「こいつ等は客じゃねえよ……かなめ坊……何だねその目は」
大将はそう言うとまだ入り口で外を気にしているかなめに声をかけた。
「まるで重要拠点だな。狙撃手は308ウィンマグか?随分と歓迎してくれるじゃねえか」
かなめの目は完全に戦場に居る時のかなめの目に変わっていた。誠はこのことに気付いてこのうどん屋が普通のうどん屋ではないことに気付いた。
「308ウィンマグ?なんですそれ。銃の名前ですか?」
誠はそう言ってかなめに目をやった。大将はその言葉を聞くとにやりと笑った。
「ここの入り口の狙撃だったら距離はいらねえんだ。5.56ミリで十分だ。それにオメエ等の歓迎をしている訳じゃねえ。いつ来るか分からねえ米帝の手先共の歓迎をしてるんだ」
「へー……」
誠は大将の『5.56ミリ』と言う言葉でそれが銃弾をさしていることが分かった。誠の使っているHK53の使用弾も口径は5.56ミリだと記憶していた。
「狙撃手付きうどん屋?」
カウラはそう言って店内を見渡した。店内には誠達の他に客は無かった。
「ここの大将は第一期『特殊な部隊』の副隊長……つまりアタシ等の先輩って訳だ」
ランはそう言って誠を見上げてきた。
「第一期『特殊な部隊』……。じゃああの山岳レンジャーの隊長のライラさんのさらに先輩……隊長が隊長をしていた最初の部隊……」
反芻するように誠はそうつぶやいていた。そしてランがただうどんをおごるためだけでここに誠達を連れてきたわけでは無いことに気が付いた。
「そうだ……うちの隊長が初めて率いた部隊……その時の副隊長がここの大将ってわけだ……」
ランはそう言って背を向けたままの恰幅の良い店の大将を見つめた。