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本物の彼女

「ふふっ、どうやら私の魅力にやられたみたいね、まあいいわ、
どうせこれからずっと一緒だしね」
そう言うと彼女は俺を抱きかかえて連れて行くとそのままベッドに寝かされました。
そして、その後に続くようにして他の女性たちも集まってきて俺を囲むようにして見つめてきました。
そして全員が全員とも俺に笑顔を向けてくると一斉に抱き着いてきたのです。
正直言って嬉しいのですが、それ以上に戸惑いの方が大きかったためどうすれば良いのか分かりませんでした。
とりあえずはされるがままになっていることにしたんですが、それが良かったのか分かりませんがいつの間にか眠ってしまっていました。
翌日目を覚ますと既に日が高く昇っていましたので、慌ててベッドから這い出ようとした時だった。
不意にドアがノックされて誰かが入ってきたのですが、その人物を見て思わず固まってしまいました。
何故ならそこにいたのは、なんと昨晩の内に寝ていたはずの女性だったからです。
それもただの女性ではなく、何と【奴隷商人】と呼ばれた男であり、
さらには彼女と一緒に寝ていたはずの他の女性たちや、昨日までは反抗的な態度を見せていたはずの彼も従順な態度で佇んでいたのです。
そして、その姿を見た俺は何となく察することができてしまったのである。
(ああ、やっぱりそうなんだな……)
俺は確信を得たと共に絶望感を覚えずにはいられなかった。
何故なら今の俺は完全に無力であり奴隷となった以上従うしかないのだと悟ってしまったからです。
ですが、それでも俺は諦めることはありませんでした。
なぜなら俺には愛する女性がいるのですから、必ずここから抜け出すチャンスはあるはずだと思っていたからなのです。
だから俺は諦めずに祈り続けました。
それこそ永遠にも等しい時間を繰り返すことになるかもしれませんが、それでも構わないと思っておりましたから……。
その後、俺の祈りは届いたのか分かりませんが遂にその時が訪れたのでした。
それは、街の外れにある古びた教会の中での出来事だったのです。
その日は特別な日であり、街を挙げての祭りが行われている最中でしたが、
何故か俺は教会の祭壇の上に立たされたまま身動き一つ取れない状況に陥っていました。
その理由はと言うと、俺の周りを取り囲むようにして立っている人たちが口々に呪文を唱え続けているせいなのです。
それはまるで呪詛の言葉のように聞こえてきて、聞いているだけで気が滅入ってくるほどだったのですが、
それでも何とか我慢しながら祈り続けていました。
そうすると突然辺りが明るくなり、そして目も開けられないほどの光が俺たちを包み込んだ瞬間、俺は意識を失いました。
次に目を覚ました時には見知らぬ場所にいて目の前にいた人物を見て俺は驚愕したのでした。
そう、目の前にいる人物は紛れもない自分自身であることが分かったからです。
そして彼は俺に向かってこう言ってきたのです。
「お目覚めですか、勇者様?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを理解した。
目の前にいるのは未来の俺なのだと……そう理解した途端に涙が溢れてきて止まらなくなってしまったが、それでも構わず話を続けた。
「どうやら、成功のようですね」
と言って嬉しそうに微笑んでいた彼女の表情は今でも忘れることができないほどだった。
何故なら、目の前にいる彼女は、他の誰よりも輝いて見えたからである。
そして俺は彼女に問いかけた。
「何でそんなに楽しそうなんだ?」
という質問に対して彼女は笑顔で答えてくれたのだが、その内容を聞いて納得したのだった。
それは、俺が今よりも更に強くなるための訓練が行えるからということだったのだ。
しかもそれだけではなく、仲間達と共に冒険ができる喜びもあったようで、
これから行われるであろう未来に期待している様子が窺えた。
そんな姿を見ているうちに俺も嬉しくなり一緒に頑張ろうという気持ちになっていたのである。
「頑張ろうね、私たち二人ならきっと世界を救えるはずだよ」
そう言って微笑みかけてくれた彼女の顔を見ながら俺は誓いを立てた。
どんなことがあっても守り抜くことを心に刻み込んだ上で、
必ず彼女を守ってみせるという決意を固めたのである。
だが、この時の俺にはまだ知らなかったんだ。
この先に待ち受けている絶望的な未来を……そして自分が犯してしまった罪を償う為に行動することを誓ったのだが、
果たして無事に生きて帰ることができるのだろうか?
いや、それ以前に生きていられるのかどうかすら怪しいところだが、それでも諦めるつもりはない。
(絶対に生き残ってやる!)
そう思いながら歩み始めた俺の背中を彼女が押してくれたのを感じつつ前へ前へと進んでいくと、ようやく出口が見えてきたようだった。
そこから先は未知の領域であったが、それでも進むしかなかったのだ。
何故なら後ろにいる仲間たちが、いる限り立ち止まる訳にはいかなかったからである。
「勇者様、後ろを見て下さい、どうやら私たちは抜け出せたようです!」
その言葉に反応して後ろを振り返った俺は愕然とした。
何故ならそこに広がっていたのは、まさに地獄絵図としか言いようがない光景だったからだ。
至る所で争いが起こり大勢の人々が傷ついて倒れている姿が目に飛び込んできた時には思わず目を背けてしまいたくなったが、
それでも何とか堪えることが出来たのだ。
だが、次に聞こえてきた言葉で現実に引き戻されることになるのである。
それは、俺の傍にいた彼女の声だった。
「あっ! 勇者様が倒れましたよ!? 助けなきゃ!」
その言葉を聞くと同時に反射的に走り出していた俺は、倒れていた彼女を抱き上げると急いでその場から離れたのだった。
そして安全そうな場所まで辿り着くと一旦休憩することにしたのだが、
そこでふと気づいたことがあったので彼女に問いかけてみたところ彼女はこう答えてくれたんだ。
「はい、まだ大丈夫ですよ? それよりもこれからどうしますか?」
「まずは、仲間を探そうと思います。もしかしたらまだ間に合うかもしれませんので」
そう答えると彼女は笑顔になってくれたんだ。
そんなやり取りをしている内に時間が過ぎていき、気づけば夜になっていた。
今日はもう遅いから休むことにして翌日に備えることにしたんだが、彼女が傍にいたから不安になることはなかった。
それから夜が明けるとすぐに行動を開始した俺たちは街に向かったんだ。
道中、何度も魔物に襲われてピンチに陥ったりもしたが、
その度に仲間たちが助けてくれたおかげで何とか辿り着くことが出来たんだ。
だけど、その時はまだ知らなかったんだ……まさかあんな事になるなんてね?
そんなこんなで目的の場所まで辿り着いた俺たちは早速情報収集を開始したんだけど、
その結果とんでもない事実を知ることになったんだ。
なんと俺たち以外の冒険者は皆やられてしまったらしく生存者がいないことが分かった。
これには正直驚いたけど、だからといってここで引き返す訳にもいかないので、
覚悟を決めて中に入ったんだが、そこには予想外の光景が広がっていた。
何と、魔王軍の奴らが人間側の兵士たちと戦っている最中であり、その光景を見た俺は唖然としていたんだ。
何故なら、人間が魔物相手に苦戦しているところを初めて見たからである。
普通なら逆の立場になる筈なのにどうしてだろうと不思議に思った俺は仲間たちに問いかけたところ意外な答えが返ってきたのだ。
なんと、この世界には人間と魔族の2つの勢力が存在していて昔から争っていたのだということが判明したのだ。
その事実を知った途端、今まで抑えていた感情が爆発したかのように怒りが込み上げてきて気づいた時には大声で叫んでいたのであった。
(ああ、そうか……そういうことだったのかよ……)
そう心の中で呟きながら目の前にいる奴らに対して敵意を剥き出しにして睨みつけると
奴等もこちらに気づいて一斉に襲いかかってきたのだが、俺も負けじと反撃を開始したんだ。
そうすると、思っていた以上に楽に倒すことが出来たので、調子に乗って暴れ回っている内に次第に意識が薄れていき、
やがて気を失ってしまったのだが、目が覚めると今度は見知らぬ場所にいた。
そしてそこには大勢の人達がいて、皆楽しそうに過ごしていたんだ。
最初は信じられなかったけど、周りの人達の話を信じるしかなかった。
何故なら彼らの言葉が嘘偽りなく真実であったことを証明するかのように目の前に映し出された映像が現実を突きつけてきたからである。
それは紛れもなく自分自身の姿であり、彼が置かれている状況を理解した時、俺は愕然としたのであった。
だが、それと同時に希望が生まれたのも事実だった為、これからどうするかを考えることにしたのだが、 一つ問題があったのだ。
それは仲間たちのことなんだけど、その居場所が全く分からないという絶望的な状況に陥ってしまったのである。
しかしだからと言って諦める訳にはいかないという気持ちが強くあったため諦めずに探すことにしたのだ。
そして、その日から俺の過酷な旅が始まったのであった。
最初に立ち寄った街では様々な情報を手に入れることが出来たお陰で、彼らの行き先を辿ることができたので、
俺もそこへ向かうことにしたのだが、そこで待ち受けていたのはあまりにも衝撃的な光景であった。
何故なら彼らは既に魔王軍によって滅ぼされた後だったのだ。
その事実を知った瞬間、目の前が真っ暗になってしまったが、それでも何とか気を取り直して次の目的地へと向かうことにしたのだった。
そうして辿り着いた先は迷宮と呼ばれる場所であり、中に入ってみるとそこはまさに地獄絵図としか言いようがない程の状況だったのである。
しかも何故か俺しかいなかった上に魔物の強さも尋常じゃないレベルで強敵揃いだったこともあって苦戦を強いられたことは言うまでもないだろう。
そんな中でも必死に戦い続けながら進んで行くとようやく出口らしきものが見えてきたのだ。
俺は喜び勇んで走り出そうとしたのだが、そこには見たこともない光景が広がっていた。
それもそのはず、何とそこは広い空間になっていて目の前には巨大な扉があるのだが、
あまりにも大きすぎて開けることが出来なかったのである。
それでも諦めずに開けようと試みるもビクともしなくて途方に暮れていた時、
突然背後から声が聞こえてきたので振り返るとそこには1人の女性が立っていたのだ。
しかもその姿は見覚えがあったのだが、記憶にある姿とはまるで別人のように変わっていたんだ。
何故なら彼女は魔族に堕ちてしまったようで肌が黒く染まっていたうえに翼が生えており尻尾まで生えていたのだから驚いてしまった。
でも、見た目が変わっただけで中身は変わっていなかったから安心したんだけど、そこから先は更なる試練が待ち受けていたのでした。
まずは彼女の戦い方なのだが、動きが非常に速くて目で追うことができなかった。
だから避けるのに必死で反撃する余裕すらなかったのだが、なんとか隙を見つけて反撃を行うことに成功したのです。
その後は防戦一方で、攻撃をかわすだけで精一杯になってしまいましたが、
それでも少しずつはダメージを与えることができていたので、このままいけば勝てると確信した直後でした。
突然彼女が姿を消したかと思うと背後に現れ攻撃を受けてしまったんです。
その威力は凄まじくあっという間に意識が刈り取られてしまいましたが、
俺は彼女を諦めることができなかったのでもう一度立ち上がろうと思っていました。
そうするとその時、彼女の声が聞こえたような気がして思わず手を伸ばしてみたところ手に何かが触れた感覚がしたのです。
それが何なのか分からなかったのですが、次の瞬間には眩い光に包まれていて現実世界へと戻ってきていました。
どうやら俺は意識を失っていたらしく、目を覚まして周りを見渡してみると仲間たちの姿がありました。
皆心配そうな表情をしていましたが、その中でも特に驚いたのは彼女だったのです。
何故なら彼女は以前とは違って優しく微笑んでくれたからです。
その表情を見た瞬間、俺は胸が高鳴るのを感じていましたが、
同時に嬉しさが込み上げてきて思わず涙を流してしまったのです。
そんな俺の姿を見た彼女は何も言わずに抱きしめてくれたんです。
その瞬間、俺は確信したんです。
この人は本物の彼女だ! ってね?
だから今度こそ彼女を幸せにするために行動を開始しました。
まずは情報収集です。
そして魔王軍と戦争している隣国から重要な情報を入手しました。
その情報とは魔王の居場所だったのです。
しかもその場所はなんと現在建設中の勇者の塔と呼ばれており、
それが完成すれば魔王城に攻め込むことが出来るかもしれないと言われたのです。
それを聞いた俺たちはすぐに向かうことを決意しました。
だけど、その前に一つやることがあるんです。

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