第110話 『男の娘』との交流
「ああ、そう言えばさっきアン君が遊びに来てたわよね。アン君たら私服も女装なのね。『特殊な部隊』に来てから本当に『男の娘』になっちゃったわね。それを普通に受け止めてる私達も私達なんだけど。だから『特殊な部隊』って言われるのかしら」
思い出したようにアメリアはそう言うと立ち上がった。サラより少し遅れて遠慮がちに食堂に顔を出し、そのまま非番の西の部屋に隊では年の近い第二小隊の三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が向かったのは誠も知っていた。
「なんだよ、ガキが何してようが勝手だろ?アイツ等は非番で寮にいるんだ。謹慎食らってるアタシ等とは身分が違う。それこそ何の後ろ暗いところも無い自由の身なんだ」
そう言うかなめだが、明らかにタレ目を輝かせてアメリアについて行く気は満々のように見えた。隣のカウラも暇をもてあましているというような表情で誰かがあと一言言えば立ち上がるような雰囲気だった。
「まー他にすることもねーからな。とりあえず不純異性交遊をしていないか偵察してこよう。ああ、この場合は不純同性交友と言うのか。かえでと言いアンと言いなんだか良く分からねーな第二小隊は」
ランまでもが立ち上がった。さらに含み笑いの茜、心配そうな表情のラーナもコーヒーを飲み干して立ち上がった。
「いいじゃないですか、西達が何をしてようが」
言葉とは正反対の態度で誠も立ち上がり西の部屋へ乱入することを決めた。正直、西達の事は誠も気になっていた。
初めはアンの女装に驚いた整備班の中で、いち早くその状況を受け入れたのが他でもない西だった。西の適応能力の高さはそのいつもの気の使いようから考えて想像に難くない。いくら年が近いとはいえ、ここまですぐに育った環境の違いすぎる二人が仲良くなるとは誠には不思議に思えた。
「おい、神前。笑いながら言っても説得力ねえぞ。それに、西とアンが何してるか……『許婚』が両刀使いのオメエにも関係あるってところか?今後の『許婚』の調教の際に必要な知識を得ようと言うんだ。勉強熱心だねえ……童貞のくせに」
微笑むかなめを見て誠もつい立ち上がっていた。そして一同はいそいそと食堂を後にして寮の階段に向かった。
「どうする?そのまま一気に踏み込むか?男同士で昼間から絡み合ってたりして。あのアンの事だ。西の事をいきなり背後から襲ったりしていることも考えられる。しかも案は今日もあのでっかい鞄を持ってた。あれはアイツの唯一の友達であるカラシニコフライフルが入ってる。それで脅して西に自分を犯すように脅迫している可能性がある。少年兵上がりならそれくらいの事はやりかねねえ」
かなめはアメリアが喜びそうな展開を予想してニヤけて見せた。ただ、どれも冗談の域を出ない範囲の事で、かえでの実際にそれを実行に移してしまうそれとはレベルが違った。
「西園寺。いきなり踏み込むのはさすがにやりすぎだろ。ちゃんとノックぐらいはしては居るのが年上のわきまえるべき礼儀と言うものだ」
ノリノリのかなめをカウラがたしなめた。だが慎重な言葉とは裏腹にカウラは一段飛ばしで颯爽と階段を駆け上がっていた。呆れているラン達を尻目に誠、かなめ、アメリア、カウラは素早く三階の西の部屋にたどり着いていた。
「おい!上官達の訪問だ!諦めて部屋を開けろ!貴様等が日中から不純同性交友をしていると言うネタは上がってるんだ!抵抗するんじゃない!すぐに顔を出せ!」
冗談めかした態度でかなめがドアを思い切り叩いた。誠達は呆れながらかなめを見つめていた。
「ああ、西園寺大尉……それと皆さんまで……何か用ですか?それと不純同性交友ってなんです?新しい言葉ですか?誰が作ったんです?聞いたこと無いですよそんな言葉」
すぐに扉が開いて西が顔を出した。すぐさま計ったように素早くアメリアが部屋に飛び込み、扉をカウラが固定しているのを見て誠も悪乗りして後に続いた。
それは違法取引の現場に踏み込む時の、『特殊部隊』のような見事に連携の取れた動きだった。