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第90話 第三者の監視する目

 そこには銃撃戦を行うランとかなめの姿とその射線から逃げる甲武陸軍の戦闘の様子が映っていた。

「どこでこんな映像!いったいこんな映像、誰が撮ったんですか?駐留軍の監視カメラって訳でもないでしょうし。それだったらこんな流出画像なんて簡単にみられるわけが無いですよ」 

 誠は目を疑った。回り込もうとした甲武軍の一個分隊を法術の干渉空間がさえぎっていた。壁にぶつかるように倒れる兵士達。ビルの屋上らしくこの画像を撮影した人物の足が見えた。

「これって……この映像を撮影した法術師が大事になるのを避けてる?」 

 干渉空間が展開されていたと言うことはラン達の銃撃戦の最中に覚醒済みの法術師がその場にいたことを意味していた。そして、画像の角度からして撮影しているのがその法術師本人であることは間違いなかった。

「今頃見たのか?うちの技術部の将校のところに匿名で奇特な方から直接送信されてきたそうだ。世の中意地の悪い奴もいるもんだな。しかし、アタシに気付かれずに干渉空間を展開するとは……なかなか手慣れた奴だ。これからは法術師にも注意しなきゃならねーな」 

 ランはキーボードを叩きながらつぶやいた。干渉空間を展開しているのはランでは無かった。まるで銃撃戦が形だけは激しくなるのを期待しているようなその法術師の意図に誠は恐怖すら感じた。

「でも……クバルカ中佐。法術が展開されている感覚は無かったんですよね?」 

 誠の言葉にランは手を休めて誠を見上げた。

「物理干渉系の能力に精通した法術師なら発動してもあまり精神波は出ねーようにできるからな。それにこっちだって銃撃戦で相手の額じゃなくて防弾チョッキの致命傷にならない所に弾を的確に当てるのに手一杯だったし。それどころじゃなかったからな」 

 そう言って再びランはキーボードを叩き始めた。

「誰かが我々を監視していると言うことですか……しかもただ監視をしていることをこちらに教えてくる……私達が追っている研究機関とは別の組織……」 

 カウラの冷静な言葉に誠は再び画面に目を向ける。発砲する甲武軍兵士の前に遼北軍の暴動鎮圧用の装甲車が飛び込んで銃撃戦は終わった。そして回り込もうとした分隊をハンミン国軍の戦闘服の一団が包囲した。

「結構凄い状況だったんですね。」 

 アンはそう言いながらスカートを気にしながら苦笑いを浮かべていた。

「民兵さんから見てもそうかい」

 アンは幼い時から民兵として戦ってきた根っからの戦士だった。今はその時通えなかった夜間中学校に訓練が終わると通っているはずだった。

「民兵じゃなくてもこれは相当な銃撃戦ですよ……よく死者が出ませんでしたね。それだけお二人の技量が高かったと言うところですか」

 アンから言い切られたかなめは落ち込みながら席へと戻っていった。

「第三勢力の介入か……こいつは……予想してたよりやべー山みてーだな。一体どこの誰だ……アメリカか?それとも……」

 ランはそうつぶやくとキーボードをたたき続けた。

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