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第65話 わらしべ長者気取りで

「さてと、わらしべ長者を目指してがんばるか……って神前よ。わらしべ長者って知ってるか?」

 かなめは誠を見下す調子でそう言った。誠は理系脳の文系知識ゼロの青年なので静かに首を横に振った。

「わら一本から次々に物を交換していって最後には長者様になるって昔話だ。子供のころとか習わなかったのか?親の教育が悪いんじゃねえの?そんな誰もが知ってる昔話を知らねえなんて」 

 かなめはそう言うと端末から先ほど手にしたディスクを取り出した。誠はその言葉の意味が分からずにランに後頭部を突かれて仕方なく車の助手席から降りた。

「わらしべ長者ねー……どこまで交換できるか楽しみじゃねーか。見事長者様になってこの事件を解決まで導ければ大したもんだ。しかし昔っからここは殺伐とした場所だな」 

 ランの言葉も当然だった。もし暴動が起きればゲート脇の土嚢から重機関銃の掃射が始まり、武装した難民がいたとしても装甲を張り巡らせた鉄塔の上からの狙撃で簡単に制圧されることは間違いなかった。

 さらに明らかに過剰装備と思える飛行戦車用の運搬トレーラーまで用意されていた。さすがに車両が無いのは予算の都合でもあるのだろう。

「物々しいというより大げさに過ぎる気配があるな。東都戦争の遺産か……また荒れると踏んでいるのか、今でも荒れているのか……」 

 呆れる誠の肩を叩きながらカウラが本部へ向かうかなめとランについていくように誠に知らせた。

「あのー、わらしべ長者って?どうやって誰とそのディスクを交換するんですか?それにあのディスク、わらしべと言うよりかなりヤバい代物ですよ」 

 誠の声に呆れたような顔のかなめが振り向く。ランはそのまま警備本部の入り口のドアにたどり着いた。

「早くしろよ!運動だけが取り柄のオメエが遅れてどうするんだ!」 

 上機嫌のかなめにそう急かされて誠は知らず知らずい早足になった。それを見たランはそのまま本部に入った。誠が遅れて建物に入ると怪訝な表情の甲武陸軍勤務服の兵士達が入り口に目を向けた。

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