第64話 『魔都』へと続く道
道は暴徒の侵入を防ぐための巨大な障害物で半分ふさがれていた。その脇では移民排斥を訴える政治団体の黒い街宣車が大音量で租界の中に暮らしている遼南難民の罵倒を続けていた。カウラの車はすぐに甲武陸軍の制服を着た兵士に止められた。ヘルメットに自動小銃と言うお決まりのスタイルの兵士は大音量を垂れ流す移民排斥を叫ぶ政治結社のバスの群れに目をやりながら停止したカウラの車の窓を叩いた。
「通行証は?」
そう言う兵士にカウラは司法局実働部隊の身分証を見せた。二人の兵士は顔を見合わせた後、後部座席をのぞき込んだ。
「同盟司法局がこんなところになんの用ですか?」
兵士はあからさまに事務的にそう言って身分証から目を話した。ただ、その目は明らかに迷惑だから早く帰ってくれと語っているのが誠にも分かった。
「バーカ。捜査に決まってるだろ?司法局がする事って他に何かあるのか?教えてくれよ」
ランの顔を見てにらみつける兵士だが、すぐに彼女が身分証を取り出して階級を見せ付けると明らかに負けたというように一人はゲートを管理している兵士達に向かって駆け出した。
「ああ、できればここの部隊長の顔を拝みたくてね。なんとかならねーかな。結構重要な案件なんだ。それなりの責任者を出してもらわねーと困るんだ。ちなみにアタシは司法局の実働部隊の副隊長をしている。相手として不足はねーと思うんだが」
そんな言葉を吐く幼女を引きつった顔で見つめる兵士はそのまま無線に何事かをつぶやいた。
「とりあえず警備本部もゲートの奥ですから」
兵士の言葉を聞くとカウラはそのままバリケードが派手な入り口を通り過ぎてゲートをくぐった。
ゲートの周りは脱走者を防止するために完全に見晴らしの効いた場所になっており、ゲート脇の塔には狙撃銃を構える兵士、ゲートの脇の土嚢の中には重機関銃を構えている兵士が見えた。
カウラはそのまま塔の隣に立てられた警備本部の前に車を止めた。