第58話 敵の腕前と言うもの
しばらくの沈黙の後、覚悟を決めたかのように嵯峨は高梨の顔を見つめた。
「なあに、ちょっとコイツで斬りつけただけだ。それほど会話を楽しんだわけじゃない。その時にこいつを俺が斬ることが出来ればすべては丸く収まったんだが……まだ俺も未熟だったってことだな」
そう言って嵯峨は立てかけてある愛剣『粟田口国綱』を指差してそのまま伸びをすした。その目はまさに『人斬り』の目だと高梨は思った。
「それはずいぶんと穏やかじゃないですね。確かにその時に兄さんがこの男を斬っていれば、クバルカ中佐達が襲われることは無かったのは分かります。でも、なんで斬りつけたんですか?そんなに危険な男なんですか?」
高梨は普段は大人しい兄がそう簡単に人を斬りつけることは無いことは十分承知していた。
「そう、穏やかじゃないんだよこの男は。実際資料も集めてみたが結果こっちの二つの写真が見つかっただけだ。渉が知らないのも無理がないよ。電子データはいくら探しても見つからなかった。こんなアナログデータ、お前さんの飯のネタにもならんだろうしな」
そして指差したのは遼帝国軍の制服を着た軍人達に囲まれての記念写真のようなもの。そして背広を着て街を歩いているところを盗撮したような写真だった。