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第44話 世知辛い話

「ご苦労だな」 

 ランはそれをのんびりと飲み始めた。

「将校だけこの辺のアパートの相場の費用を取れば良いんですよ。そうすれば経理上はつじつまが合う。それにその方がここの食費に当てられる金額も増えます。士気も上がります……なあ!島田!」 

 経理を担当しているだけにそう言う時の菰田の頭の回りは速い。だが、厨房から顔を出してものすごい形相で威圧しているアメリアを見て、菰田はそのままテーブルの上の番茶に手を伸ばして目をそらした。さらに准尉で菰田が目の敵にしている島田がサラの隣でプリンを食べながら指を鳴らして菰田を襲撃する準備を進めていた。

「それは高梨に言ったんだが……手続き上無理なんだと。それと……アメリア。少しは自重しろよ。オメーが一番階級が上なんだからな。ここでの問題行動が一番多いのがオメーってことは寮生の報告で割れてるんだ。一番自重しなきゃならねー中佐が一番暴走してるって……なんとかならねーかな」 

 そう言って悠然とランはお茶を飲んだ。ランの標的にされたアメリアはこれ以上ランに関わるのは不利と感じたらしく、食堂の奥に引っ込んだ。

「上は今度の同盟軍教導部隊のことで頭がいっぱいで、うちには余計な予算はつけたくないのが本音だろうからな。最近は物価も上がってるから、マジでここの食い物もちゃちなもんに変わるかも」 

 そう言いながらかなめが白米を口に運んだ。誠も言いたいことは理解できた。それに大食漢の誠にとって食の質の低下は能力の低下に直結した。ランに命じられて毎日20キロマラソンを勤務中にさせられている身としては厳しいところだった。

 予算が少なければ、人材が少ないのも『特殊な部隊』を奇人変人の集団に変えた一因だった。同盟機構の軍事機関の正式発足に伴い西モスレムで編成される部隊には次々と同盟加盟国のエースが引き抜かれていた。

 司法局実働部隊は問題児ばかりで引き抜きこそ無かったものの実働部隊の予算が削られることも当然想定できた。せっかくの第二小隊が引き抜かれることになれば目も当てられない。ただ、かえでの変態性は同盟機構も十分承知している話なので、それはあまり考えられる話では無かった。

「世の中お金なんですね……これで菰田君が部長代理のままだったらどうなってたことやら」

 アメリアは頼りにならないと言うか積極的に嫌っている菰田をそう言って貶して見せた。

「だから高梨参事が来たんだろうが!でも参事でもできることとできねーことがある。部長だったらそんくらい考えろ!第一、背広組のキャリアが出先の部長職なんて言う閑職を引き受けてくださったことだけでもありがてーことなんだぞ!そこんところをだな!」

 ランは高梨とは旧知の中なのでどうしても高梨の事を庇ってしまいがちになる。

「はいはい、でもうちが貧乏部隊なことには変わりないんじゃ意味無いんじゃないの?ランちゃん」

 確かに隊が貧乏なのは高梨参事が来ても変わらないことだった。それは第二小隊が隣の工場で訓練を受けていると言う事実からも誠でも分かる買えられない現状だった。

「貧乏だったら貧乏らしく生きる。『清貧』と言う言葉が有る。貴様等もその言葉をよく学んでおくことだ」

 ここでカウラがランの手助けに入った。ただ、誠は理系脳の語彙力ゼロの青年だったので『清貧』と言う言葉の意味が良く分からずにいた。ただひたすら、自分達が貧乏な境遇に置かれている事実を嘆くことしか誠にはできなかった。

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