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第41話 上司が居ると都合の悪い日常

「どうすんだよ!ちっちゃい姐御が来たら……」 

 貴族出身で権威主義者のかなめにとってランの中佐の階級は恐怖だった。明らかに動揺した調子でそうつぶやいた。

「みなの緊張感が保たれて綱紀が粛正される。問題ないな。すべてにおいて良い傾向だ。西園寺の今日のような非行も無くなるだろう。全く持って歓迎すべきことだ」 

 かなめの独断専行にいつも手を焼いていた小隊長のカウラは平然とそう言い放って喜んで見せた。

「カウラ!テメエ!隠れてパチンコ行ってるのばらすぞ!それでも良いんだな!」 

 カウラとかなめがにらみ合った。ようやく痛みがひいたのかゆっくりと立ち上がったアメリアがすねを抱えて転げまわっていた島田の襟首をつかんで引き寄せた。

「正人ちゃん。サラも下に来てた様な気がするんだけど……それも指示書にあったの?自分の彼女がどさくさ紛れて同棲なんて、純情硬派が笑わせてくれるわね」

 どさくさ紛れに彼女であるサラまで同居すると言うアメリアは不審そうな目で島田を見つめた。 

「ありました!なんならお見せましょうか?それに部屋は俺とは離れてますから!何ならアメリアさんが監視についてもいいですよ!俺達はあくまで清い交際をしているんです!」 

 サラとの付き合いが公然の事実である島田が開き直った。そしてそのままアメリアは胡坐をかいて目をつぶり熟考していた。

「茜さんは元々仕事以外には関心が無い。問題ないわね。ラーナも同じ。そしてサラはいつも私達とつるんでいるから別に問題ない。そうすると……」 

「やっぱちびじゃねえか!問題なのは!アイツは副隊長の地位を利用していろいろ言って来るぞ。どうするよ。誰が責任取るんだよ」 

 かなめとアメリアが頭を抱える。ほとんどの隊の馬鹿な企画の立案者のアメリアとその企画で暴走するかなめにとってはそのたびに長ったらしい説教や体罰を加える元東和陸軍特機教導隊の鬼隊長の同盟司法局実働部隊副長クバルカ・ラン中佐と寝食を共にするのは悪夢以外の何者でもなかった。

「まあ、捜査が続く間はおとなしくしていることだ。というわけで西園寺。部屋に帰るぞ。神前、毛布を借りるぞ。裸のまま西園寺に歩き回られては風紀に関わる」 

 そう言うと立ち上がったカウラがかなめの首根っこを掴んだ。

「わあった!出りゃ良いんだろ!またな。今度はちゃんと良いことしてやるから」 

 かなめはカウラに引き立てられるようにして立ち上がる。アメリアはぶつぶつ独り言を良いながらそれに続いた。

「まったく。面倒な話だな」 

 島田も彼女達を一瞥するとそのまま立ち上がり、誠の部屋のドアを閉めた。

『だんだん偉い人が増えるんだな。しかし……これはチャンスを逃したのかもしれないな。モテない宇宙人である遼州人の大半は童貞処女で一生を終えると言うからな……さすがにそれはそれで悲しい』 

 そう思いながら着替えをしていた誠だが、すぐに緊張して周りを見回した。先ほどの隠しカメラの件もある。どこにどういう仕掛けがあるかは島田しか知らないだろう。そう思うと出来るだけ部屋の隅で小さくなって着替えた。

「寒!もうそんな季節か。僕がこの隊に来た時は暑くて仕方なかったのに」 

 思い出してみれば窓が開いたまま。とりあえず窓を閉めてたんすからジーンズを取り出した。そのまま何とか出勤できるように上着を羽織って廊下に出た。いつものようにあわただしい寮の雰囲気が広がっていた。夜勤明けの整備班員が喫煙所から吐き出す煙を吸いながら階段を下りて食堂に入った。

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