第42話 食事当番はアメリア
その日の食事当番はアメリアだった。いつもの事ながら要領よく味噌汁などを配膳しているアメリアを見て誠は日常を取り戻した気がした。
「誠ちゃん!サービスでソーセージ二本!これで私のイメージアップ!遠慮せずに食べてね!」
管理部の眼鏡の下士官からトンクを奪って誠のトレーに一本限定のはずのソーセージを乗せた。
「良いんですか……って先輩すいません。アメリアさんは暴走するといつもこうなんで」
「俺の方がアメリアさんとは付き合いが長いんだ。アメリアさんがいつもこうなのは知ってるよ」
メガネの下士官はアメリアの気分屋のところを知り尽くしているように諦めながらそうつぶやいた。思わず振り向いた先に嫉妬に狂う同僚達の冷たい視線が突き刺さった。
「良いんだって!誠ちゃんは特別なんだから!」
そうアメリアに言われてそのまま味噌汁を受け取り、誠は自分のご飯を盛り付けた。
「おう、これが飯を食う場所か?おう!みんなちゃんと朝飯は食ってるな!朝飯を抜くと士気に関わるからな!しっかり食え!」
ランの声が響くと隊員達は一斉に立ち上がり小さなランに敬礼した。司法局実働部隊の副長である彼女は悠然と敬礼を返してアメリアが食事の盛り付けをしているところにやってきた。
「ランちゃんも食べるの?」
アメリアに何度注意しようが『ちゃん』付けが直らないことでランはアメリアの指導を諦めていた。
「おー、朝飯なら食ってきたからな。それより今日はここの施設を見て回ろうと思ってな」
この一言に半数の隊員がびくりと震えた。寮の規則の多くは島田の温情で有名無実なものになっており、多くの隊員は寮則の存在を忘れていたところだった。当然、何よりも規律を重んじるところのある鬼の副隊長であるランが動けばどうなるか。それを想像して食事をしていた隊員達の箸の勢いが鈍るのが誠にも見えた。
「私達は勤務だけど……菰田君?案内は」
アメリアの言葉にさらに数人の隊員が耳を済ませているのが分かった。技術部整備班班長の島田正人准尉と管理部経理課課長代理の菰田邦弘主計曹長の仲の悪さは有名である。菰田はこれを機会に島田を陥れようと島田の悪行の数々をランに吹き込むに違いない。島田の車好きにかこつけて寮則違反の物品を部屋に溜め込んでいる隊員には最悪の事態なのが誠にも見て取れた。
「案内なんていらねーよ。それに菰田に案内させると困る連中もいるんだろ?そんぐれー分かってるよ。アタシは出来た上司だからな」
そう言ってランは子供の姿からは想像もできない意味深げな笑いを浮かべた。その姿に隊員達はほっと胸をなでおろした。
「アメリア!飯!」
ようやくかなめが革ジャンを着て現れた。その後ろからはいつもどおり司法局実働部隊の勤務服姿のカウラがついてきていた。
「私はいつからかなめちゃんの奥さんになったのかしら?飯なら自分で盛れば?いくら甲武のお姫様でもそのくらいは出来るでしょ?この前までは自宅で自炊していたはずだから」
そのまま二人の喧嘩に巻き込まれるのもつまらないと思って誠はそのまま食堂の隅にトレーを運んで行った。
「それじゃあちょっと休むからここ座るぞ」
そう言ってかなめ達ににらみをきかせるように、小さなランがちょこんと誠の前の椅子に座った。それを見て菰田が彼女を見つめている技術部の禿頭にハンドサインで茶を出すように合図した。
「菰田、気を使いすぎると老けるぞ。なー」
ランの言葉はそう言うが、一見幼女の彼女が老獪なのは知れ渡っていて指示された隊員が厨房に走った。
「まったく、つまらねー気ばっかり使ってるなら書類の書式くれー覚えて欲しいもんだな。高梨参事が愚痴ってたぞ。菰田は計算は正確だが、書類の書式をまだ完全に覚えてくれていねーって。まー計算が正確なのはパートの白石さんがチェックしてるからであって菰田の手柄じゃねーけどな」
そう言って足が届かないのでランは椅子から足を投げ出してぷらんぷらん揺らした。