応援したい気持ち
時間は進み午前の部、最終種目大玉転がしを終え、お昼ご飯の時間。
運動場の校舎側には先生達や、実況する高学年の人族がテント内に。
運動場自体には、競技をする場所ごとに白線が敷かれ、その外側には保護者のみんなが応援に駆けつけている。
ボクも競技を終えたので、トール達のいる観覧席に向かう。
「はぁ……はぁ――っ」
息が上がらないって言ってたけど、感覚が全然違う。
このゆっくりな動きに、そのままの五感を合わせるのキツ過ぎるよ。
誤算だった。五感がそのままなら、余裕だと思っていたのに。
ボク以外の獣人族の子供達も、少なからず動きに影響を受けているみたいだ。
あんまり表情が明るくない。
もっと動きを確かめておけば良かった。
「えらいしんどそうやね。チィコ?」
息も絶え絶えになりながら、観覧席に着くとトールが迎えてくれた。
その表情は満面の笑みではなく、何か言いたそうな感じだ。
きっと、ボクが失敗したことに対して何か言いたいんだと思う。
でも、これは準備を怠ったボクが悪い。
「ふぅー…なに? 嫌味でも言いたいの?」
違う、こんなことを言いたかったわけじゃない。
「あ、いや、そうじゃなくて……ごめん――」
情けないよね、ちょっと自分の思い通りにいかなかったからといって人にあたるなんて。
「いや、ええよ。そんなんより、お腹減ったやろ? 皆でご飯にしよ」
トールは落ち込むボクの手をグイッと引く。
そして、クラスメイト全員が集まる観覧席へと連れて行ってくれた。
☆☆☆
観覧席では、クラスメイトのみんなが悔しそうな顔で、トールお手製のお弁当を頬張っていた。
保温性に優れた水筒に入れてきたお味噌汁の優しい匂いと、お弁当特有の色んなおかずの混じった匂いもする。
カルファはまだ行き届いていないみんなへお弁当を配り、ドンテツは飲み物を入れ回っているみたいだ。
二人の姿に気を取られていると、トールの姿が消えた。
周囲を確認する。
でも、いない。
もしかしたら、何か急用でもできたのかな。
少し気落ちしていると、集まりの中から一際大きな声が聞こえた。
「悔しいですね! 皆さん頑張っていたのに!」
「うん、そうだね。僕もそう思う!」
光るおでこがトレードマークの穂乃花とムードメーカーの勇樹だ。
どうやら二人は自分達の能力を過信していたボクら責めることなく、その頑張りを認めてくれている。
自分勝手な振る舞いをしたのに。
「あ、チィコ! ほら、トールお兄様の手料理ですよ! これを食べてお昼からの種目全て一位勝ち取っちゃいましょう!」
ボクの視線に気付いた瞬間。
満面の笑みで、いつも通り「トールお兄様、トールお兄様」と言いながら、お弁当を渡してきた。
「わ――っ、こ、これ――」
お弁当の中身を見ると、そこには【がんばれ! チィコ! 自分を信じろ! 友達を信じろ!】と白ご飯の上にのりでメッセージが貼り付けられていた。
「ええ、そうです! さすがトールお兄様ですよね! クラスメイト全員分のお弁当を用意するだけでも、感嘆の声が出ますのに。まさかクラスメイト全員の名前とメッセージを添えてくれるなんて」
「本当に、僕達の分まで用意した上での、これだからね。トール兄ちゃんは凄すぎるよ」
「う、うん。そうだね……本当に凄いや」
手渡されたお弁当のおかげで胸の辺りが温かい。
全部……全部わかった上でトールはボクに意見をしなかったんだね。
きっとカルファもドンテツだって、こうなることをわかっていたから、何も言わないで教室を出ようとしたトールを止めたんだ。
そしてクラスメイトのみんなは失敗したことよりも、次頑張ろうって言ってくれている。
じゃあ、ボクは――。
「午後部、クラス対抗リレーは任せて……ボク全力で挑むから!」
「うふふ、その意気です! 期待していますし、私も死ぬ気で走ります!」
「うん、僕も全力で走るよ! 死ぬ気ってまではいかないけどね」
ボクらのやり取りを聞いていたのか、少し遅れて他のクラスメイト達が一斉に声を上げる。
「「「うぉーー! みんな頑張るぞぉーー!」」
こうして、一致団結したボクらは午後の部へと挑んだ。
☆☆☆
運動場が夕日に照らされて赤く色づき、生徒のみんなは片付けを終えた人から保護者と帰り始めている。
運動会は無事終えることができた。
怪我人も出なかったし、身体能力低下もちゃんと解けて何の影響もない。
だけど、ボクら星屑組は全クラス中、最下位となってしまったのだ。
友達からの声援を受けたこと。
トールお手製お弁当を食べたこと。
色んな想いを感じ、抱き締めて。
ボクらは、出せる全力を出したはずなのに。
届かなかった。
終わってから思う。もっと準備をすれば良かったとか。
油断せずに挑めば良かったとか。
でも、清々しい気持ちもある。
特にクラス対抗リレーに関しては特にみんなの想いが一つになっていた。
体は重かったし、どれだけ慣れようとも気持ちには応えてくれなかった。
だけど、あの瞬間は獣人族だからとか、人族だからとか全くなくて、ただ頑張っているクラスメイトを応援したい。
みんなで一番になりたいっていう気持ちだけは、ボクの胸の辺りにあった。
傍から見たら、決して速く走れていなかったと思う。
でも、心に翼が生えたみたいな感じがしたんだ。
命を賭けて、難敵を倒し、世界を救う。
そんな冒険の日々も充実していた。
でも、それはやっぱりボクの隣トール、カルファ、ドンテツがいたから。
それと一緒なんだとボクは思った。
片付けを終えて、校門に向かっていたら、そこにはボクの大好きなみんなが立っていた。
トールにカルファ、ドンテツ。
それに穂乃花に勇樹、クラスメイトのみんなが――。
「チィコ、どうや? 今日は楽しかったか?」
トールが満面で言う。
「うん! すんごく楽しかったよ!」
やっぱりトールはボクらの勇者だね。
これからも宜しくね。