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「まあ、店長がそう言うならいいですけど。あたし達の給料下げないでくださいね」
「・・・なんか、グサッときた」
「そりゃそーですよ。努力もしないで売り上げ落ちたからって給料下げられたらたまったもんじゃありません。まあ、その時は辞めますけど」
真顔になった店長が携帯を置いた。「本気で言ってる?」
「本気ですよ。給料下がったら、ですけど」
「・・・雪音ちゃんは?いてくれるよね?」
「わたしも給料下がったら辞めますね」
店長はカウンターに突っ伏した。「そんなこと言わないでよぉ・・・俺ら一心同体でしょ?」
「いつからそうなったのか詳しく教えて頂きたいのですが?」
「うう、春香ちゃん冷たい」
「冷たくないです。店長には危機感が足りないと思うんですが?この辺は激戦区なんですよ?続々と新しい店がオープンしてるし、良いと思ったらみんなそこに行くんです。確かにここは常連さんが多いけど、それがいつまで続くかなんてわからないじゃないですか」
店長は突っ伏したまま、黙った。正論すぎて、何も言えないんだろう。
「わかったよ・・・何か考えてみる」
──いつも思うが、どっちが経営者かわかりゃしない。
「凌ちゃんにアドバイス貰いに行こうかな」
その時点で考える気がないような気もするが、それ以上は春香も何も言わなかった。
そしてその後、店長の"改心"が功を成したのか、4人のお客さんが来店した。
午後23時─。
結局、4人の来店を最後に客足は途絶えたが、春香は満足気だった。というのも、店で1番高いワインが3本開いた上に、テイクアウトの大量注文が入ったからだ。
「良かったですね、店長」
いつもの定位置で煙に包まれている店長に労いの声をかけたが、店長は全身の骨が抜かれたように垂れ下がっている。
「そうだね・・・俺の腕は死んだけど」
「初めてじゃないですか?あれだけのテイクアウト入るの」
「うん。これからは厨房にいるのが俺1人なのを考えて注文を取ってほしい・・・」
「店長なら出来るってわかってたからそうしたんですよ。ていうか、店長以外いませんよ?短時間であれだけの注文をこなせるのは」
言ったのはわたしではなく、隣でグラスを洗っている春香だ。