【パレード職人トト】の備忘録
「え? 取材の人もう来たの? ちょっと待っててもらって!」
「責任者、ご覧の通り忙しいので。応接間に案内します」
Q.いえ、お邪魔でなければここで見学したいのですが。
「はぁ。構わないと思いますが……。ちょっと聞いてきますね。すいませーん、トンカさーん!」
「なーにー?!」
「取材の人ー! ここで見学したいってー! 言ってまーす!」
「安全そうなところに座らせててー!!」
「……ということです。比較的安全なのはあの辺りでしょうか。ご案内します」
Q.ご丁寧にありがとうございます。しかし、随分と大きな……気球、ですか?
「おや、気球をご存じで。そうなんです。聖都のパレードでは、気球を派手に使うことが多いんですよ」
Q.気球を派手に?
「はい。気球の上から花火を打ち上げたり、花を散らしたり。後は、気球そのものを派手にしたり、ですね」
Q.聖都の様子を見たところ、シンプルで慎ましい生活をしているように見られましたが。
「ええ。普段は宗教の教則通り、清貧な生活を送っている国民がほとんどですよ。だからでしょうか。はしゃいでもいいお祝いの日は、皆、タガが外れたように華々しくしたがるのです」
Q.一年に一回のお楽しみになっているんですね。
「そのとおりです。まあ、このような形になったのも、昔にいた聖女様の試みであると伝わっておりますが」
Q.聖女様、ですか?
「はい。その方は大層楽しい事好きの方だったそうです。普段の清貧ぶりに感謝を示しつつ、我々国民の意を組んで、普段の抑圧から解放される日があってもいいのではないかと、このような形を提唱したようです」
Q.それでは、このパレードの形はその聖女様のお陰なんですね。
「左様でございます。聖女様様々です。お陰様でパレード職人はこの国の花形職と呼ばれるまでになりました」
Q.あれ? でもそれまではパレードが無かったって事ですよね? 聖女様が試みたその時に生まれた職業何ですか?
「いえ。パレード職人自体はそれ以前にもいたようなのです。ただ、その時はパレード職人というよりは」
「冠婚葬祭職人だった、ってのが正しいところだね」
Q.お疲れ様です。お忙しい所、申し訳ありません。
「いいってことよ。自己紹介が遅れたね。もしかしたら知ってるかもしれないが、ウチはトンカ。ここの工房長をしているよ」
Q.本日はよろしくお願いします。
「硬い硬い。もっと気楽にいこうぜー?」
きゃらきゃら笑う姉御肌な彼女は、大きなスパナを肩に掛ける。
Q.冠婚葬祭職人だったというのは。
「言葉のとおりだよ。冠婚葬祭の、特に葬式が多かったかな。宗教的に、決まった祭事を執り行わないといけないからね」
Q.会場を整えるお仕事をしていらっしゃったんですね。
「そう。そして、その仕事をしていた最後の職人が、ウチの婆さん。トトさ」
Q.パレード職人に切り替わる、最後の職人さんだったのですね。
「そういうこと。なんかまー、いろんなことがあったみたいだよ?
Q.それでも、今はパレード職人が増えた。
「ま、ウチはそれ以外にも冠婚葬祭も受け付けてるけどね。ただまぁ、パレードの時期が近付くとそっちの方にかかりきりになっちゃうって感じかな」
Q.ウチはってことは、他にも競合が?
「いるいる! というか、ウチ一強だとあの仕事量は無理だって! 聖都のパレードは見たことあるかい?」
Q.そうですね、一度だけ、見たことがあります。
「ならわかるだろう? 気球以外にも、
Q.熱い職人魂、見せていただきました。あちらの気球も、華々しい色合いをしていますね。
「そうそう。今年の自信作だよ」
Q.独特な模様ですね。……見ようによっては、人が二人? 向かい合ってるように見えますが。
「プティラ柄だね。婆さん考案の独自の模様だよ。評判も中々いいんだよ」
Q.プティラ柄? どんな意味があるんでしょうか。
「意味はー……。
Q.この辺りでは聞き馴染みのない言葉ですね。どこの言葉なんでしょう。
「ウチは分からないけど……。多分、婆さんの出身の国じゃないかな」
Q.お
「そうそう。若い時にこっちに嫁いで、早くに連れを亡くしたらしいよ。その時に、稼ぐためにとまだ赤ん坊だったウチの母さんを育てるために、冠婚葬祭の職人になったんだってさ」
Q.予想以上に大変な……。
「そうだねー。特に、その当時は女の立場は低い時だったらしいし、今じゃ考えられないくらい大変なことだらけだったと思うよ」
Q.それでも
「婆さんに聞かせたい言葉だね。空の上で喜んでいるよ。きっと」
Q.そうでしたら嬉しいですね。
「すまないね。話が脱線しちゃって。婆さんの出身の話だったよね」
Q.いえ、歴史を感じられるお話を伺えました。とても興味深かったです。
「そう言ってもらえると助かるよ。それで、婆さんの出身何だけど、もう無い国なんだよね」
Q.無い国、ですか?
「そう。昔にね、悪政を敷いていたことで国民の不興を買い、革命が起こって滅びた国だよ。婆さんがこっちに嫁いできて、ずっと後にね」
トンカは気球を見上げる。
もう無い国、その国の言葉が付けられ継がれてきた柄に、彼女は何を思うのか。
「その国の名前は、リガルド王国。革命によって滅びた、婆さんの故郷だよ」