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「話変わるけど、あの量、よく持って来れたわね」

「え?なにがですか?」

「冷蔵庫開けた時、あたし大家族だったかしらって錯覚したわ」

「ああ・・・なんか、何買っていいかわからなくて。あれでもだいぶ戻したほうです」

「しばらくは何も買わずに済みそうだわ」

「いや、食べれない物は無理せず捨ててくださいね」

「あなたが買ってくれた物を捨てるわけないでしょ。ふふ、毎日雪音ちゃんを思い浮かべながら食べるわ」

「・・・早坂さん」

「ん?」

「って、変わってますよね」

「ええ!?何よ急に」

「いや・・・わたしたち、会ってそんなに時間が経ってるわけでもないのに・・・そこまで、その、大事に思ってくれてるから」

「あら、それは伝わってるのね。よかったわ。そうねぇ・・・年月で言うなら、そんなに経ってないわね。だからこそ、怖い部分もあるわ」

「と、ゆーと?」

「今でこうなのよ?この先あなたと時間を共有すればするほど、恐怖心も募っていくんだろうなって」

「恐怖心、とは?」

「うーん、そうねぇ・・・考えられる事全部、かな」

「それが聞きたいんですが」

「アハ、あたしもうまく説明できないわ」

「・・・わたしが、死んだら・・・とか?」

早坂さんは黙った。表情は見えないが、空気が張り詰める。何が、この人をこんなに不安にさせるんだろう。

「死にませんよ、わたしは」

早坂さんがこっちを向いたのがわかった。

「この先、時間を共有して、命の危険を感じる事があったら・・・その時は、早坂さんを盾にしてわたしは生き延びます」わたしも早坂さんを見た。「それでいいですか?」

「・・・クックックッ」ベッドが小刻みに揺れ始めた。早坂さんが暗闇の中でわたしの手を捕まえる。「そうね。気が楽になったわ。ありがとう雪音ちゃん」

「盾にするって言われて礼を言うのも、おかしな話ですけどね」

「雪音ちゃん」

「はい」

「さっきの、無かったことにしていい?」

「さっきの?」

「抱きしめていい?」

──"何もしないから"

「・・・そーゆーこと、わざわざ聞かれると・・・」

「いい?」

無言は、肯定の証。
早坂さんはわたしの頭を持ち上げると、自分の腕を差し込み、そのままわたしを胸に抱き寄せた。髪にあたたかい息がかかる。


「う─、落ち着く」

わたしも、今回は緊張より安堵が勝ったらしい。説明しようのない幸福感に包まれる。

「わたしも、この部屋、落ち着きます」

「え?何もないのに?」

「早坂さんの匂いでいっぱいだから」


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