反撃2
「マティアス王子、聞いておられますか?」
「あ、ごめん。聞いてなかった」
バカ王子。おろか者。無能。
マティアスに対するマクサ将軍の心の声が聞こえる。
マクサ将軍はその後もベラベラとくだらない話を続ける。マティアスは機嫌の悪い顔を作って言った。
「マクサ将軍。特に話しが無いのなら下がってくれ。少し休みたい」
「はぁ、申し訳ありません」
マクサ将軍はチラリとテントの隅に立てかけてあるマティアスの剣に目をやった。マティアスが戦の時にいつも腰にさげている剣だ。マクサ将軍の口の端がニヤリとゆがむ。
マクサ将軍は腰の剣を抜くと、マティアスの首すじに剣を突きつけた。
「これは何のまねだ?マクサ将軍」
「何って、謀反ですよ?バカ王子さま」
「ほう?叔父上の指図だな」
「そこまではわかっていたのですね?」
「ああ。叔父上と結託して、ゲイド国とも手を組み、ザイン王国を手に入れようとしている事もな?」
「!」
どこまで知っている。ゲイド国王から賜った金の燭台。イエーリには教えていない。
焦りを見せたマクサ将軍の心を読む。どうやらマクサ将軍はイエーリすらも信用していなかったようだ。
「ゲイド国から受け取った金の燭台の裏にはゲイド国の紋章が刻まれているのだな。それを証拠に叔父上につきつければ、叔父上も言いのがれはできまい」
「ふん、何とでも言え。マティアス王子、貴様はここで死ぬのだ」
マティアスは素早く胸元のペンダントに触れた。マティアスの手の中から剣が出現する。マクサ将軍の顔が青ざめた。
「バカな、鉱物生成魔法だと?!マティアス王子の魔法は風魔法のはず!」
マティアスは自身の首すじに向けられている剣先を弾き、反対にマクサ将軍の首すじに剣を突きつけた。
「お、王子。お許しください。これは緊張した王子の心をほぐすための冗談なのです」
「ほぉ。それは面白い冗談だな?ならばこれは俺の冗談だ。このまま剣をすすめたらどうなるかな?」
マティアスはマクサ将軍の首すじに剣先を押し付ける。研ぎ澄まされた剣はマクサの首の皮を切り、血が滴り落ちる。マクサの乾いた悲鳴が聞こえる。
テントの背後からバタバタと足音が聞こえる。テントの奥から二人の兵士がなだれ込んで来た。
ザイン王国軍の者たちではない、ゲイド軍の兵士だ。それまで真っ青な顔をしていたマクサ将軍の顔に笑顔が浮かんだ。
「形勢逆転だな。お前たち!早く王子を殺せ!」
ゲイド軍の兵士たちは剣を抜き、マティアスめがけて斬り込んでくる。マティアスは剣を持っていない左手を軽く振った。
手のひらから風攻撃魔法を発動させる。鋭い風の刃は二人の兵士の胸を斬り裂き、吹き飛ばした。
「形勢逆転だな。マクサ将軍の切り札は無くなったようだ。さて、これからどうするのだ?」