第11話(1)ハッタリをかます
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「……お待たせしました、キョウ殿」
「どうだった、ウララ?」
「はっ、ジャックめを先頭に、北東の山から、山の王の軍勢が進んできております」
「北東……あちらの方角に潜んでいたのか」
「いわゆる鬼門ってやつだな」
「ええ……」
俺の言葉にアヤカは頷く。ウララが斥候の報告を続ける。
「軍勢の数はさほどではありませんが、いずれの兵も屈強な体格をしております」
「まさにつわものどもか……」
「この地域に駐屯している国軍とぶつかった場合……どう見る?」
「……国軍の方が不利かと」
アヤカの問いに対し、ウララは冷静に答える。アヤカは舌打ちしながら呟く。
「ちっ、中央へ報告はしたが、援軍がこの地にたどり着くまでには数日かかる……」
「……別に全面的にぶつかる必要はありんせんじゃありんせんか?」
「……なんだと?」
「エリーの言う通りだね……」
オリビアが顎をさすりながら呟く。アヤカがエリーに問う。
「……策があるのならば聞こうか」
「策というほど大したものじゃありんせん……」
「なに?」
「ねえ?」
エリーがオリビアに対して目配せする。オリビアが頷いて、自らの側頭部を抑える。
「ああ、頭を射抜けば良いだけのことさ……」
「頭だと?」
「つまりは山の王と、アタイらが先に不覚をとった、あの三人の幹部クラスみたいな連中を片付けてしまえばいいってこと。そうすれば向こうは自然と瓦解するさ」
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』という言葉があるだろう」
「それは戦においての話だろう。これは戦じゃない……」
「なに……?」
「そうだな、ケンカみたいなもんだと考えれば良い」
「そ、そんな馬鹿な……」
オリビアの話に顔をしかめるアヤカに対し、エリーが告げる。
「山の王だかなんだか知りんせんが、今はかつての勢威をほぼ失っているのでございんしょう? それなら馬鹿正直に丁重に扱ってあげる義理などありんせん……」
「むう……」
「所詮は山賊に毛の生えた程度だと思えばよろしい……」
「ふむ……」
「……サムライガールはある程度納得してくれんした……いかがでありんしょう?」
エリーは俺に視線を向けてくる。指針を示せということか。俺は少し間を空けて頷く。
「……俺もエリーとオリビアの考えは概ね間違っていないと思う。その方向で行こう」
「……どうするんだ?」
「さ、さほど多くなくても軍勢はいらっしゃるんですよね?」
イオが訝しげに、ヴァネッサが不安気に尋ねる。オリビアが悪そうに笑いながら呟く。
「ふふっ、こういうのはハッタリをかますのが大事なんだよ……」
「ハ、ハッタリ?」
ヴァネッサが首を捻る。俺たちは山の王の軍勢の前に出る。オリビアが俺を促す。
「それじゃあ、一丁頼むよ……」
「……?」
俺が前に進み出る。ほぼ全裸の俺の姿を見て、軍勢が戸惑う。俺は間髪入れず叫ぶ。
「ヤマオウは俺が倒す‼」
「⁉」
軍勢がかき分けられ、山王と幹部たちの姿が見える。なるほど、ハッタリね……。